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放射線被ばくの話

第1章 放射線、放射能(放射線物質)

第2章 放射線の利用

第3章 放射線の防護方法

第4章 自然放射線被ばくと人工放射線被ばく

第5章 医療放射線被ばく(外部被ばくおよび内部被ばく)

第6章 放射線障害(確定的影響および確率的影響)

第7章 胎児期の影響

第8章 放射線の測定

第9章 Q & A

   Q1 : 医療で日常的に用いられている放射線検査により、患者に影響が出たり、障害が出たりすることはありますか。(45歳男性)

   Q2 : 毎年、健康診断で胸部と胃の検査を受けていますが大丈夫ですか?(38歳女性)

   Q3 : 放射線検査をたて続けに何回も受けました。これらの放射線検査で受けた放射線が原因で、将来生まれてくる子供に遺伝的な疾病が発生するのではないか、と心配です。(30歳女性)

    Q4 : 妊娠中に腹部X線検査を受けたのですが、胎児に影響はありませんか?(30歳女性)

    Q5 : 広島県の食品・飲料には放射能の影響はありますか?

    Q6 : 現在販売されている魚介類は食べても大丈夫ですか。

放射線被ばくの話

第1章 放射線、放射能(放射線物質)

「放射線」と「放射能」はよく似た言葉で同様の扱いをされることがあります。「放射線」と「放射能」を、焚火にたたえると、炎が「放射線」で、薪が「放射能」となり炎(放射線)を出す能力があるものです(図1.1)。薪が1秒間に燃える量がベクレル(Bq)と呼ばれる「放射能」の単位です。炎によって物が温められるのと同じように、「放射線」が物に与えるエネルギーの量を「吸収線量:グレイ(Gy)」という単位で表します。1Gyは1kgの物に1ジュール(J)の熱量を与えることを意味します(1Gy=1J/kg)。1Jは同じ熱量の単位では約0.24カロリー(cal)に相当します。水1gを1℃温めるために必要な熱量が1calですので、水1kgを1℃温めるためには1000cal必要です。つまり吸収線量:1Gy(=1J/kg)では、水1kgを0.00024℃しか温めることができません。

色や温度が違う炎があり、物を温める力が異なるように、「放射線」にもいろいろな種類のものがあり(図1.2)、体に与える影響が異なります。そこで放射線の種類を考慮した係数(放射線荷重係数:表1.1)を吸収線量に掛けることにより、放射線の種類も考慮した単位の「等価線量:シーベルト(Sv)」となります。また同じ温める力でも温められる物によって温度の上がり方は異なります。体も同様に同じ放射線の量(等価線量)を被ばくしても、被ばくした部位によって影響が異なります。この部位ごとの感受性の違いを考慮した係数(組織荷重係数:表1.2)を等価線量に掛けることにより、健康への影響を評価した単位の「実効線量:シーベルト(Sv)」となります。

「放射線漏れ」や「放射能漏れ」という言葉を聞きますが、「放射能漏れ」は、炎(放射線)が出ている薪(放射性物質)が散らばって、いろいろな場所で炎(放射線)が出ている状態です。一方、「放射線漏れ」は、予定以外の場所から炎(放射線)が出ている状態です。蓋を被せることにより炎を防ぐことができますが、紙や木の蓋では燃えてしまうため蓋の材質を考えなければなりません。放射線の場合も同じで、蓋(遮へい)をすることができますが、放射線の種類によって適切な材質を選ぶ必要があります(図1.3)。また炎から離れると暖かさが減るのと同じように、距離を離れることにより被ばく線量を減らすことができます。

第2章 放射線の利用

放射線とラジオアイソトープの利用方法はきわめて多岐に亘っていますが、トレーサ利用と照射利用の2つに大別されます。

・トレーサ利用

物質中にわずかのラジオアイソトープを混ぜ、それから出る放射線を測定器で追跡して物質中での挙動を知る方法をトレーサ(追跡子)法といいます。その際、物質の物理的挙動を知る目的で単に混合する場合を物理的トレーサといいます。また、その物質と同一の化学的挙動を行わせるために、物質分子の一部をラジオアイソトープ原子で置換したもの(標識化合物)を混合する場合を化学的トレーサといいます。特に最近、化学的トレーサは生化学・遺伝子工学・医学研究や新薬開発などに大いに利用されています。

・照射利用

加速器あるいはラジオアイソトープから出る放射線を照射の目的で利用するとき、照射される物質中で、(1)化学変化が起こらない場合、(2)化学変化が起こる場合、(3)原子核反応が起こる場合の3つに大別されます。表2.1に示すように、(1)の例は放射線の透過・吸収・散乱の現象を利用するX線による診断、ラジオグラフィ、厚さ計などによる工業計測などがあります。さらに、電離・励起の現象を利用する煙感知器や夜光塗料の発光、蛍光X線分析なども含まれます。(2)の例は、60Coや137Csの大線源を用いたプラスチックなどの高分子化合物の改質、医療器具の滅菌処理などがあります。さらに、電子リニアックからの電子線や高エネルギーX線を用いた癌の放射線治療なども注目されています。(3)の例としては、原子炉からの中性子を用いた放射化分析法による微量元素の分析などがあります。

・その他、特殊な利用法として、14Cを用いた考古学的試料の年代測定、熱源利用としてのアイソトープ電池などがあります。

第3章 放射線の防護方法

3.1放射線の防護方法

 放射線被ばくは、人体の外から放射線を浴びる外部被ばくと放射性物質を体内に取り入れた時に被ばくする内部被ばくがあります。放射線防護の方法はそれぞれの放射線被ばくの仕方で違います。

①外部被ばくの防護

 外部被ばくを防護するには、次の方法が採られます。

  (1)遮蔽:放射線を遮へいする

  (2)時間:放射線にさらされる時間を短くする

  (3)距離:線源から距離をとる の3つの方法があり、これらを外部被ばく防護の3原則といいます。 また、不必要な線源の除去などの線源管理も外部被ばくの防護となり ます(図3.1)。

通常は、外部被ばくの防護方法は、いずれか一つの防護 方法のみで行うのではなく、3原則を適切に組み合わせることにより行い ます。 

②内部被ばくの防護

 内部被ばくは、研究などを行う放射線業務従事者と一般公衆人とは区別して考える必要があります。両者とも放射性物質(放射性同位元素)を体内に取り込むリスクを下げることが重要です。  放射線業務従事者に対しては、内部被ばくの防護の原則には、次の3D・2Cの原則があります。

  (1)希釈(Dilute) :薄める

  (2)分散(Disperse) :換気するなど

  (3)除去(Decontaminate) :汚染を除去する

  (4)閉じ込め(Contain) :容器に入れる

  (5)集中(Concentrate) :線源の保管

  また、一般の公衆人の内部被ばくを防護するためには、感染予防 の場合と同じような方法をとります。

  (1) 放射性物質を皮膚につけない(防護方法は、換気扇などを回さずに部屋の中にいる。外出時には雨合羽などで体を包み込む。

                                              皮膚などに放射性物質が付着した場合には、シャワーで身体を洗う。)

  (2) 放射性物質を吸わない(防護方法は、外出する場合には、短時間で用事を済ます。)

  (3) 放射性物質を口に入れない(防護方法は、放射性物質が付着した食物や野菜などを食べない。)

   体内に取り込んだ物質からの放射線を遮蔽することなどは不可能ですので、これらの原則に従い、放射性物質を体内に入れないことが防護につながります(図3.2)。

第4章 自然放射線被ばくと人工放射線被ばく

自然放射線は、地殻中または大気中に存在する放射性核種からの放射線、あるいは地球以外の遙か彼方から地上に飛来する宇宙線などです。自然放射線被ばくは、宇宙線や大地放射線など自然界による体外被ばくと食物・空気を通して体内に摂取される自然放射性核種からの放射線による体内被ばくがあります。世界中の人が自然放射線源から受ける一人当たりの平均放射線量は年間2.4ミリシ-ベルト(mSv)(体外被ばく0.87ミリシ-ベルト(mSv)、体内被ばく1.55ミリシ-ベルト(mSv))です。

体外被ばくは宇宙線0.39ミリシ-ベルト(mSv)、大地放射線0.48ミリシ-ベルト(mSv)で、体内被ばくはラドンなどの吸入によるものが1.26ミリシ-ベルト(mSv)、食物の摂取によるもの0.29ミリシ-ベルト(mSv)です。地殻中に存在する自然放射性核種は地球上の場所により異なり、そのため被ばく線量に地域差があり、世界の一部地域では、4~25倍も線量率が高いところがあります。自然放射線による人体の被ばく線量を図4.1に示します。

人工放射線源は、多くの種類がありますが、一般公衆の放射線被ばくについて、1.フォ-ルアウト(放射性降下物)、2.原子力発電、3.医療放射線、4.日常生活用品に分類されます。

(1)フォ-ルアウトは、1945年以来、今日までの多くの核実験で放射性核分裂生成物が大気圏内に放出され、時間の経過と共に地表あるいは海上に降下したものです。塵と共に浮遊している放射性核種の吸入摂取、および食物に含まれる放射性核種の経口摂取による体内被ばくと地表に付着したフォ-ルアウトからの体外被ばくあり、その線量は、一人当たり平均年間0.01ミリシ-ベルト(mSv)です。

(2)原子力発電所は、世界で400基以上設置され、原子力発電、核燃料サイクルで微量であるが放射性物質が一般環境に放出されています。これらによる公衆の被ばくは年間一人当たりの平均被ばく線量は、自然放射線による線量の1%程度です。

(3)医療放射線(診療用X線、放射線発生装置や診療用放射性同位元素からの放射線)は、診断、治療、核医学検査の分野で、今日まで人類の健康保持・向上に貢献しています。医療被ばくは、放射性医薬品を患者に投与する核医学診療を除き、体外被ばくがほとんどで、診療科目によって被ばく線量にかなり差があり、かつ線量の不均等分布が大きくなります(胸のX線集団検診1回0.05ミリシ-ベルト(mSv)、胸のX線CT検査1回6.9ミリシ-ベルト(mSv))。医療被ばくでは、各個人の被ばく線量の他に、集団線量としての寄与が重視されています。全世界では医療放射線による集団線量の寄与は、自然放射線による寄与に次いで大きくなります。

(4)日常生活用品の中に、放射性核種を取り入れた製品(夜光時計、蛍光灯グロ-放電管、煙感知器など)があります。これらの装置・器具による人体に対する被ばくは無視できるほど少なく、通常の使用状態では、問題が生じません。しかし、火災、地震などの事故、あるいは破損による適正な廃棄がされないと、環境汚染の心配があります。

 自然界や医療機器から浴びる放射線を除き、一般の人が人工的に浴びる放射線量の限度は、放射線防護の専門家でつくる国際組織(ICRP)で平時の上限は一般の人で年間1ミリシ-ベルト(mSv)とし、原発事故などの緊急時には20~100ミリシ-ベルト(mSv)の範囲で対策をとるように勧告しています。身の回りの放射線被ばくを図4.2に示します。

第5章 医療放射線被ばく(外部被ばくおよび内部被ばく)

放射線を使用した検査や治療は、正当化と言われる“被検者にとって病気の診断や治療などで得られる利益が放射線被ばくによる不利益よりも多いこと”を前提にして実施されます。長寿命化に貢献しているとも考えられますが、日本における医療放射線被ばくが諸外国と比較し多いことも事実(図5.1)ですので、正当化に関しては十分に議論することが必要です。

医療放射線被ばくは、胸部X線検査やX線CT検査などのように体の外から放射線を照射して検査を行うことによる外部被ばくと核医学検査のように体内に放射性医薬品(放射性物質)を投与して検査を行うことによる内部被ばくに分けられます。

医療放射線被ばくに関しては、IAEA(国際原子力機関)や日本放射線技師会より各検査時の被ばく線量低減目標値(表5.1、5.2)が示されており、ほとんどの施設がこの線量以下での検査が行われています。また装置の管理や被ばく線量低減のための工夫を行うことで、さらに少ない線量となるように努力が行われています。

胎児に影響が現れるといわれている線量は、100ミリグレイ(mGy)以上と言われており、通常の検査でこの線量を超えることはありません。しかしX線透視下で血管内治療を行うIVR(インターベンショナル・ラジオロジー:Interventional Radiology)では、皮膚障害(図5.2)も報告されています。このような治療を行う上では、治療による利益が放射線被ばくによる不利益よりも多いこと、障害を生じる可能性があることを十分に説明した上で治療が行われています。

医療放射線被ばくの線量は、「放射線」が物に与えるエネルギーの量として「吸収線量:グレイ(Gy)」という単位で表します。被ばくの影響を表す単位のシーベルト(Sv)で表すためには、放射線の種類を考慮した係数(放射線荷重係数:表5.3)を吸収線量に掛けることにより「等価線量:シーベルト(Sv)」となります。また被ばくした部位によって影響が異なりるため、部位ごとの感受性の違いを考慮した係数(組織荷重係数:表5.4)を等価線量に掛けることにより、健康への影響を評価した単位の「実効線量:シーベルト(Sv)」となります。

第6章 放射線障害(確定的影響および確率的影響)

放射線を利用して腫瘍などを治療する方法があるように、放射線には人体を構成する細胞の活動を妨げる働きがあります。放射線が体に当たることを被ばくと言いますが、被ばくの仕方にもいろいろあります。

 短時間に高い線量の放射線に被ばくした場合、皮膚や消化管の粘膜、血球を作る骨髄や全身の知覚神経と運動神経の伝導路である脊髄に障害が現れることがあり、これを急性被ばくと言います。これらの組織では細胞分裂が盛んなため放射線の影響を受けにくいとされています。脊髄は例外的に一過性の放射線脊髄炎により排尿・排便機能や運動機能が障害されます。図6.1のように臓器・組織ごとに症状が出現する線量が決まっており、この線量までは問題ないが、この線量を超えると症状が出現することから“しきい値”と言います。表示されている線量より多い被ばくでは必ず症状が出現するため確定的影響と言います。

 このタイプの放射線障害は、細胞内で放射線と細胞内の水分子が反応し、ラジカルと呼ばれる他の分子構造を破壊する性質の物質ができます。このラジカルが遺伝子であるDNAを破壊します。通常であればDNAは一部分が壊れても自己修復が可能ですが、しきい値以上の線量で被ばくすると自己修復が追いつかなくなり、細胞や臓器の機能が低下し放射線障害としての症状が現れます。

一方、急性障害とは異なり、被ばくしてから数年、数十年たってから現れる障害もあります。放射線による癌や白血病などの悪性腫瘍や遺伝病などの発生です。急性被ばくによる障害が現れるような高い線量でなくても、長い期間に慢性的に被ばくし、累積した線量に応じて病気になる確率が増えていくため確率的影響と呼ばれます。悪性腫瘍や遺伝病などは被ばくしなくても一定の割合で発病する可能性があるため、被ばくの影響は図6.2のように、病気が自然発生する確率に被ばくによって発症する確率を足しあわせて表されます。ちなみに低線量の被ばくが体によい作用をもたらすというホルミシスという考え方もありますが、いまだ明確な答えは得られていません。

放射線被ばくによる確定的影響も確率的影響も、被ばく線量が多くなればなるほど病気になることには違いがありませんが、病気の種類や発病の仕方が異なるところに注意してください。

第7章 胎児期の影響

毎年、多くの妊娠女性にX線検査などによる放射線被ばくの不安がもたらされていますが、通常は、妊娠中絶などについて心配する必要はありません。患者にとってX線検査は医学的に見て必要な検査であり、実際の検査では、胎児への放射線被ばくによるリスクは最小になるように配慮されています。いわゆる、放射線被ばくを伴うX線検査は正当化されて行われています。また、必要以上の放射線を用いることはなく、必要な画像診断情報を取得するために最適化されているのが現状です。

 妊娠女性の医療被ばくは、他の医療被ばくと異なり、母親と胎児の両方の問題が存在します。胎児期の放射線の影響は成人と比較して感受性が高く、影響の発生には時期的な特性があり、発生した影響は非可逆的であるなどの特徴があります。X線検査による100ミリグレイ(mGy)以下の胎児線量では、胎児に対する放射線による確定的影響は発現しないため、不安にまかせて妊娠中絶は行う必要はありません。しかしながら、妊婦の胎児が高い被ばく線量を受けたと思われる場合には、医師や診療放射線技師は胎児線量と潜在的な胎児のリスクを推定しなければなりません。患者はそれの十分な説明を受けた上で、個人の事情に基づいて妊娠中絶を行うか行わないかを最終的に決定しなければなりません。

7.1胎児期の発生学分類

 胎児期は、図7.1のように着床前期、器官形成期、胎児期の3時期に区分されます。このそれぞれの時期で放射線の感受性と発現する影響が異なります。これを影響の時期特異性といいます。着床前期は、受精した受精卵が子宮に着床するまでの時期であり、受精後約9日間です。この時期には、胚死亡、流産、未着床などの影響を受けます。器官形成期は、細胞が分化して個々の臓器の元になる細胞ができあがる時期であり、子宮に着床した後の受精後2〜8週の時期です。この時期には、奇形、小頭症、新生児死亡などの影響を受けます。胎児期は、それ以降の時期であり、臓器、組織が成長を繰り返す時期です。この時期には、新生児の死亡、精神異常、出産後の発がんなどの影響を受けます。

胎児期の放射線被ばくが原因して発した奇形や精神発達などの遅れなどは、一旦発生すれば、人体の自然治癒力で回復することはありません。

胎児死亡は、着床前死亡、器官形成期の死亡である胎芽死亡、胎児期の柴生である胎児死亡の3つに分けられます。着床前死亡は流産の形で現れ、胎芽柴生は着床後の早い時期に発生した場合には、放射線被曝が原因かどうかは気づかれません。

 奇形は、外表奇形、骨格奇形、内蔵奇形などがありますが、放射線被ばくによりヒトで観察されている奇形には小頭症があります。

 精神発達遅滞は、広島・長崎での原爆被ばくの結果から、胎児期の放射線被曝との関係が注目されています。胎児期の放射線感受性は、受胎後8週から15週の時期が最も高く、次で16週から25週の時期に感受性が高いとされています。大脳皮質が形成される時期は8〜20週頃であり、この時期にしきい値以上の放射線被ばくを生じれば、精神発達遅滞をもたらす可能性があります。

7.2胎児の放射線被ばくによるリスク

 放射線被ばくよるリスクは妊婦の妊娠全周期を通して存在し、そのリスクは妊娠の時期と放射線の被ばく線量に関係します。放射線被ばくによるリスクは器官形成期など胎児早期において最も感受性が高く、第2トリメスターでわずかに低くなり、第3トリメスターで、感受性は最も低くなります。トリメスターとは3ケ月のことです。放射線検査による胎児の放射線被ばくは、出産後に小児がんになる可能性のリスクがあります。表7.1に胎児への放射線影響としきい線量を示します。

7.3放射線誘発奇形

 妊娠中の奇形は被ばく線量が100~200ミリグレイ(mGy)、もしくはそれ以上の放射線量のしきい値があり、一般的に中枢神経障害が生じる可能性があります。このほかにも奇形、成長遅滞、胎児死亡のリスクも発生します。胎児の被ばく線量100ミリグレイ(mGy)という値は、骨盤のCT検査3回分や一般的なX線検査20回分よりも多い線量です。X線検査などによってもたらされる100ミリグレイ(mGy)レベルの線量は、通常の腹部単純X線検査などではありえず、骨盤のIVR(血管低浸襲治療)やがんの放射線治療の治療でなければ達することはありません。

7.4中枢神経系への影響

 受精後8~25週において、特に中枢神経系は放射線に高い感受性を示します。胎児線量が100ミリグレイ(mGy)を超えた場合、幾分IQ(知能指数)が低下する可能性があります。胎児線量が1000ミリグレイ(mGy)(1Gy)以上になると、危篤な精神遅延や小頭症を引き起こす可能性があり、特に8~15週においてそのリスクが増加し、16~25週である程度減少します。

7.5白血病と癌

 成人・子供に関わらず、放射線被ばくによって白血病や種々の癌に罹患するリスクが増加することが示されています。妊娠全周期を通して、胎芽/胎児は発がんの影響に関して、子供と同様のリスクが生じると考えられています。胎児線量10ミリグレイ(mGy)で、相対的リスクが1.4(自然発生率より40%増加)となります。子宮内で10ミリグレイ(mGy)の放射線被ばくをした場合、小児1700人のうち0~15歳までに癌で死亡する絶対的リスクは、1人です。

7.6受胎前照射

 妊娠前、両親のいずれかの生殖腺が放射線被ばくにあった場合でも、子供に癌や奇形のリスクが増加するという結果は得られていません。この結果は、子供時代に放射線治療をうけた患者の研究と同様に、原爆生存者における研究から得られた確かなものです。

7.7インフォームド・コンセントと理解

 妊娠している患者や放射線診療従事者は、子宮への放射線被ばくによって生じる潜在的な影響の大きさと種類を知らなければなりません。胎児への線量が1ミリグレイ(mGy)未満は、極低線量として放射線被曝のリスクを無視して問題ありません。しかしながら、もし胎児線量が1ミリグレイ(mGy)を超えた場合には、より詳しい説明が求められます。

7.8妊娠中の患者への照射

 妊娠の状態によってはX線検査を行うことは適切なことではなく、もし実施されるようなことになれば、出生前の子供の健康に害を与えるリスクが増大する可能性があります。最適化された診断行為による出生前の撮影ならば、出生前死(流産)や奇形、精神発達遅延などのリスク増加は見られません。しかしながら、IVRや放射線治療などでは、被ばく線量が高くになり、胎児へ重大な健康被害がでるおそれがあります。

7.9放射線検査による医療行為

 患者に対するすべての医療行為は、検査が行われる前に、リスクよりも利益が優先するよう正当化されていなければなりません。そして、放射線検査を行う場合には、胎児線量は必要最低限の診断情報が得られる程度に抑制する必要があります。

7.10潜在的妊娠への評価

 放射線検査を受ける必要のある妊娠可能年齢に達した女性について、放射線検査をする前に妊娠しているか、あるいはその可能性があるかを問診しなければならない。定期的に月経のある女性で、月経が遅れていた場合には、妊娠していないことが判明するまで妊娠しているとみなされます。また、妊娠の可能性を注意する掲示物は、患者の待合室などに貼って注意を促す必要があります。

7.11X線検査による胎児の概算線量

 通常、胸部や腹部のX線検査などによる放射線被ばくは非常に少なく、胎児への確定的影響は問題にする必要はありません。表7.2にX線検査で放射線被ばくする胎児の概算線量、表7.3に透視やCT検査による胎児の概算線量を示します。

7.12高い放射線被ばく線量をもたらす放射線診療

 放射線治療やIVRでは、胎児線量が10~100ミリグレイ(mGy)オーダーとなります。もし、妊娠している患者にこのような高い放射線被ばく線量をもたらす放射線診療が行われた場合には、胎児線量や胎児の潜在的リスクについて、医師や診療放射線技師はリスクの評価を行う必要があります。

7.13核医学検査と妊娠患者

 核医学検査では、主として胎児に大きな線量を与えない短半減期の放射性核種( 99mTcなど)が使われており、胎児線量は、母体の水分補給と頻繁な排尿によって減らすことができます。ただし、胎盤を通過して胎児リスクを引き起こす放射性核種(131Iなど)もあるので注意しなければなりません。妊婦に131Iが投与されれば、妊娠10週後から胎児の甲状腺に放射性ヨウ素が集まり始め、胎児の甲状腺が高線量を受けるようなことになれば、永久的に甲状腺機能低下症となる可能性があります。放射性ヨウ素投与後12時間以内に、妊娠が判明した場合には、すばやく非放射性ヨウ化カリウムを(60~130mg)母体に投与することで、胎児の甲状腺線量を減少させることができます。この処置は何回か繰り返して行う必要があります。

 また、多くの放射性医薬品が母乳の中に排出されるので、乳児へのリスクを回避するために次のような方法で授乳を控える必要があります。

①131I 治療後は完全に授乳を控えること。

②131I, 123I, 67Ga, 22Na,210Tl の投与後は、3週間授乳を控えること。

③99mTc 標識赤血球, DTPA, 及び リン酸塩投与後は授乳を4時間控えること。また、これ以外の99mTc化合物、および131I 標識ヒプル塩酸塩は投与後12時間授乳を控えること。

7.14妊娠している放射線業務従事者における放射線被ばく

 妊娠している医師、診療放射線技師、看護師などの放射線診療従事者は、妊娠期間中の胎児線量が確実に1mGy未満であれば、放射線診療業務を行っても支障はありません。なぜなら、1mGyはすべての公衆人が一年間自然バックグラウンドから受ける線量にほぼ等しいからであす。

7.15妊娠中絶

 妊娠後期における胎児への高い放射線被ばく線量(100-1000ミリグレイ(mGy))では、すべての器官形成が終わった後ですから、奇形や出産異常はほとんど生じることはありません。胎児線量が100mGyであった場合、放射線誘発癌のリスクがわずかに発生し、99%以上は、小児癌や白血病にならない可能性の方が高いといえます。胎児線量が100ミリグレイ(mGy)未満で、妊娠中絶を考慮することは正当化されていません。しかしながら、胎児線量が500ミリグレイ(mGy)を超えた場合,胎児へ重大な損傷が生じ、その大きさや種類は線量や妊娠期間に関係します。胎児線量が100~500ミリグレイ(mGy)では、妊娠中絶を行うかどうかは医師と相談して個人的な判断で決定しなければなりません。

第8章 放射線の測定

放射線は「見えません」、「聞こえません」、「味も匂いもありません」、その上「触っても感じません」。つまり、我々の「五感」で感じることが出来ません。したがって、放射線を「測る」ためには、放射線を何か「我々のわかる信号」に変えてやる必要があります。放射線はある種の物質にあたると、物理的・化学的な反応を起こす場合があります。この反応を上手く利用することによって放射線を「測る」ことが出来ます。

たとえば放射線の起こす物理的な反応の一つに「電離作用」があります。これは物質を構成する原子をプラスの電荷を持ったイオンとマイナスの電荷を持った電子に分離する作用です(図8.1)。この電荷を上手く集めて電気信号に変えることにより放射線を「測る」ことが出来ます。また、「励起」といって原子を不安定にする作用もあります。電離や励起によって不安定になった原子が元へ戻ろうとするときに光を出す場合があります。これは「蛍光(シンチレーション)作用」と呼ばれ、このとき放射された光を測定して放射線を測ることもできます。

放射線を測るには様々な装置がありますが、最もよく知られているものに「電離作用を利用した電離箱式サーベーメータ(図8.2)やGM計数管(ガイガーカウンタ)(図8.3)、蛍光を利用した「シンチレーション式サーベイメータ(図8.4)」があります。

GM計数管では放射線の種類やエネルギーを測ることはできませんが、比較的安価で、施設などからの放射線の漏洩や、放射能による汚染の検査、またその強弱を手軽に確認することができます。そのほか、化学反応を利用した検出器(線量計)も広く利用されています。また、環境放射線の測定や、個人の被ばく量を測定するポケットサイズの線量計など、その用途に応じて様々なタイプの測定機器が使われています。

第9章 Q & A

Q1 : 医療で日常的に用いられている放射線検査により、患者に影響が出たり、障害が出たりすることはありますか。(45歳男性)

A1 : 放射線や放射性物質というと、胎児への影響、遺伝的影響、白血病、がんなどの発生が多くなるのではないかと心配します。しかし、放射線の影響が発生するかどうかは、受けた身体の部位と放射線の量に関係します。放射線診療に用いる放射線の線量は少なく、影響の発生や障害の発生を心配する必要はありません。

Q2 : 毎年、健康診断で胸部と胃の検査を受けていますが大丈夫ですか?(38歳女性)

A2 : 心配しなくてもよいと考えられます。医療被曝の面から集団検診を行うメリットとデメリットが考慮されています。この場合、集団検診を受ける年齢と照射回数が問題となりますが、高齢になるほど利益が大きく、損失が小さくなります。大体35~36歳が中間点となっています。実際に毎年受ける意味があるのは何歳以上かというと、利益が損失の3倍になるという目安でいくと、約40歳以上と言われています。

Q3 : 放射線検査をたて続けに何回も受けました。これらの放射線検査で受けた放射線が原因で、将来生まれてくる子供に遺伝的な疾病が発生するのではないか、

と心配です。(30歳女性)

A3 : 通常の診断行為で受ける線量では、遺伝的影響の発生を心配する必要はないと考えて結構です。遺伝的影響は、子供を産む可能性がある年齢の人が生殖腺に被ばくした場合に限って問題になる影響です。これから子供を産む可能性のある若い人でも、生殖腺以外の部位なら、仮にどんな大量の放射線を受けたとしても遺伝的影響が発生する可能性はまったくありません。

Q4 : 妊娠中に腹部X線検査を受けたのですが、胎児に影響はありませんか?(30歳女性)

A4 : 胎児への放射線影響はありません。腹部撮影で被ばくする胎児の線量は、2.9mGyです(ICRP publ 62)。胎児に影響が現れるといわれている線量は、100ミリグレイ(mGy)以上です。心配することはありません。

妊娠中であるにもかかわらず、腹部Ⅹ線検査を行ったということは、検査する必要があったためだといえます。自然に発生する先天異常は、5~10%といわれています。(標準産科婦人科学)

Q5 : 広島県の食品・飲料には放射能の影響はありますか?

A5 : 影響はありません。広島県においてモニタされている放射線量の測定結果からはこれまでのところ異常値は検出されておりません。したがって、食品・飲料に放射能の影響が及ぶことはなく、心配ありません。

Q6 : 現在販売されている魚介類は食べても大丈夫ですか。

A6 : 福島第一原子力発電所の近くの海では、現在、出漁が行われていませんので、同原子力発電所周辺の魚介類は市場に出回っていません。また、福島県に隣接する県の海域においても、各県が漁業を再開する前に、試験的に漁獲した漁獲類に含まれる放射性物質の検査を行い、その結果が暫定規制値を超えないことが確認された場合にのみ、漁業を再開することになっています。さらに、漁業再開後も漁獲された魚介類の安全確認のため、放射性物質の検査を継続して週1回程度行います。(消費者庁)

最終更新日:2013年8月26日