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第3回2014.7.4更新

中国における高齢化社会の対策~日本の取組みの経験から~

中国における高齢化の現状

中国は1999年、高齢化率が7%に達し、高齢化社会を迎えました。2014年2月24日、中国国家統計局が公布した「中華人民共和国2013年国民経済と社会発展統計公報」によると、2013年末、65歳以上の高齢者人口はすでに1億3,161万人になり、高齢化率は9.7%に達しました(表参照)。世界一の人口大国である中国は同時に世界一の高齢人口大国でもあります。今後も加速的に増加すると予測されています。
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包 敏 准教授

医療福祉学部 医療福祉学科

中国蘇州大学外国語学部日本語学科講師を経て、02年3月、関西学院大学大学院社会学研究科終了、2002年4月より、広島国際大学医療福祉学部に着任、中国蘇州市出身。

表 2013年末人口数及びその構成  単位:万人
(出典)中国国家統計局(2014)「中華人民共和国2013年国民経済と社会発展統計公報」より作成。

中国における高齢化の特徴

①人口の規模が大きい

2012年末、全国60歳以上人口は1.94億人、65歳以上の人口は1.27億人で、65歳以上人口が総人口に占める割合は9.4%です。2030年には65歳以上人口は2.3億人に達し、2050年には3億人を超える見込みです。高齢化は近代化に先駆けて起こっています。

 

②未富先老

つまり、まだ豊かになっていない段階で、近代化に先駆けて高齢化社会に入りました。中国の高齢化は、低い経済レベル、または、社会保障制度の整備が未完成の段階で急速に進むという事情があります。先進国は「先富後老」、つまり、近代化が実現できた段階、先に豊かになってから高齢化社会を迎えました。先進国が高齢化社会を迎えた際、一人当たりのGDPは5,000ドルから1万ドルで、2001年、中国の一人当たりのGDPは1,000ドルに達し、2012年に一人当たりのGDPは6,000ドルを超えたばかりです。高齢化に対応するには経済力が弱いのです。

 

③生産年齢人口の構造の変化

新たに生産年齢人口に仲間入りする人口が、高齢化人口より多いです。中国では、60歳が高齢者と定義されています。1980年、15歳から59歳の生産年齢人口中、中位年齢数は30歳で、2010年には37歳になり、2025年に40歳になります。これは2025年に中国の生産年齢人口のうち、中堅的な存在の半数が40歳以上を占めることを意味しています。急速な高齢化及び高齢化による生産年齢人口の供給の減少、生産年齢人口構造の高齢化に伴い、労働力人口の負担が重くなり、労動生産の効率に影響を与えます。

 

④社会保障制度の不備

高齢化の加速により、高齢者の扶養をはじめ、介護および社会、 市場商業化された高齢者サービスの保障が一層難しくなり、社会全体の高齢者扶養の圧力が高まります。現段階では、中国において社会保障基金が不足し、年金保険の運用が困難に陥っています。

 

⑤高齢者介護の問題

高齢者サービスと高齢者扶養方式が困難に直面しています。改革開放政策の実施により、農村部から都市部への流動人口が増加しています。また、1980年以降、本格的な一人っ子政策を推進した結果、伝統的な家族扶養モデルが揺らいでいます。30年来、中国では一人っ子政策の実施により、一般家庭の家族構成は4:2:1(真ん中の2は一人っ子夫婦、4は夫婦双方の親、1は一人っ子)となっています。いまや、一人っ子が老親の介護をする伝統的な家族扶養モデルが成り立たなくなっています。高齢者福祉施設の絶対数が不足しているため、高齢者の介護が大きな問題になっています。

 

⑥地域間の差が大きい

中国の人口高齢化は明らかに西低東高の特徴があります。つまり、経済的に進んでいる東部沿海地域は経済的に遅れている西部地域より高齢化率が高いです。例えば、1979年、上海は中国大陸でいち早く高齢化社会に突入した都市です。寧夏回族自治区は西北地区にあり,2011年に高齢化社会を迎えて、その差は32年です。また、都市部と農村部の間に高齢化の差が存在します。農村部の高齢化は都市部のそれより、1.24%高いです。この傾向は、2040年まで続き、二十一世紀の後半に入った後、都市部の高齢化率は農村部と逆転します。

日本の取組みの経験から見る中国高齢化対策

 

国際医療福祉演習のフィールド先である中国上海市第3社会福利院(左)、中国蘇州大学(右)での見学写真


 

日本は1970年に高齢化社会に突入してから、高齢社会を経て、現在ではすでに超高齢社会を迎えています。世界的に前例のないスピードで高齢化が進んでいくなか、高齢化対策の取組みも他の国と比べて先駆けて行われています。これまで実施されてきた施設や在宅などの高齢者対策が高齢化問題の解決に非常に大きな役割を果たしました。私は中国にとって、日本の介護保険制度、中でも居宅サービスと地域密着型サービスが、今後中国の高齢化対策に大いにヒントを与えるものだと思っています。
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