チーム医療に強い人材を育成する医療系総合大学

学部

第4回2014.9.10更新

「五感力」を活用した療育支援技術に関する研究

内閣府が、国民生活に身近な話題や政府の重要課題について、記事などで情報発信する「政府広報オンライン」というウェブサイトがあります。そこでは、発達障がいに関して、「発達障がいは、広汎性発達障がい(自閉症など)、学習障がい、注意欠陥多動性障がいなど、脳機能の発達に関係する障がいです。発達障がいのある子どもは、他人との関係づくりやコミュニケーションなどがとても苦手ですが、優れた能力が発揮されている場合もあり、周りから見てアンバランスな様子が理解されにくい障がいです。発達障がいの人たちが個々の能力を伸ばし、社会の中で自立していくためには、子どものうちからの『気づき』と『適切なサポート』、そして、発達障がいに対する私たち一人ひとりの理解が必要です。」と記載されています。

また、文部科学省は、通常学級の児童生徒のうち、6.5%に発達障がいの可能性があると報告(2012年調査)しています。

眞砂 照美 教授

医療福祉学部 医療福祉学科

(現在の)特別支援学校、こども療育センター、県立点字図書館等に勤務したのち、1998年の広島国際大学開学と同時に医療福祉学部に着任し、現在17年目。社会福祉士。博士(社会福祉学)。

発達障がいの方に見られる感覚過敏

さて、私たちの五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の力は、昔と比べてとても落ちていると言われています。例えば、朝起きて一番に感じた触覚について聞かれても、普段は五感を意識しないで生活しているため、困ってしまいます。

発達障がいの人には、感覚過敏という問題があります。研究者のスミスとシャープは、当事者へ聞き取り調査を行いました。『鳥のさえずりはとても腹立たしい』『蝿の羽音は私の頭をのこぎりのように通過する』『風船の音でパニックになり、耳を覆って叫びながら走り回った』『視覚的にぴったりの明るさが必要、明るすぎると頭痛がする。』『濃い味はだめ』と語っています。反対に『いつも重い鞄を肩から提げてプレッシャーを感じている』と自らが感覚刺激を求める場合もあります。「発達障がいの人の感覚過敏の状態は、彼らの人生に結果的に大きな影響力を与えている。<異感覚体験(他の人と異なる感覚体験)>では恐怖感を覚え、ストレスフルな状態になる。何度も繰り返されると、結果的にそれから逃れようと仲間を拒絶し、孤立する。彼らの異感覚体験を分かってくれる少人数の中での交流が重要」とスミスとシャープは指摘します。

問題と捉えず、理解することが大切

発達障がいの子どもが自分の方に掌を向けてバイバイする「逆転バイバイ」があります。自分の体験と人の体験が重なり合っていかないのです。社会生活では、心の発達課題と言われる、相手には自分と違った心があり、次に相手がどのような行動をとるかを予測することが必要です(写真左)。発達障がいの子どもたちの行動やパニックをそのまま問題として捉えるのではなく、その子どもがどのように考えたり感じたりして困っているのか、という理解が必要です(写真右)。本研究は、保育士が発達障がいの子どもの感覚体験を正しく理解し、自らの五感を活用しながら療育支援技術を高めていくことを目的として進めています。

 

(左)Theory of Mind心の理論課題検査法(文教資料協会)、(右)特定非営利活動法人 ちゃいるどネット大阪 保育教材

 

<参考資料>

・政府広報オンライン「発達障がいって、なんだろう」 http://www.gov-online.go.jp/featured/201104/

・文部科学省HP「特別支援教育について」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm

・山下柚実監修(2012)『五感力は生きる力 第3巻 五感を生かして表現しよう』すずき出版

・Smith, R. S. and Sharp, J. (2013), Fascination and Isolation: A Grounded Theory Exploration of Unusual Sensory Experiences in Adults with Asperger Syndrome, Journal of Autism And Developmental Disorders, 43:891-910.

・杉山登志郎(2007)『発達障がいの子どもたち』講談社現代新書

 

 

施設では、発達障がいの子どもたちを支援すべく、さまざまなツールを準備しています。(児童発達支援事業所「ともだちひろばにんな」提供)

img