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学部

第5回2014.10.20更新

社会福祉現場における人材育成

研究のはじまり

 私は、大学生の頃から、子どもと家族をめぐる問題に関心があり、勉強を続けてきました。大学生の頃に出会った、虐待を受けた子どもたち、いじめを受けた子どもたち、友人関係で悩みを抱え学校に行くことができなくなった子どもたち…、苦しい思い、悲しい思い、辛い思いをしている多くの子どもたちに出会うなかで、私にできることは何だろうか、と自問自答する日々でした。

 実習で児童養護施設や児童相談所に行く機会にめぐまれ、ケアを必要とする子どもたちとの生活を体験しました。実習を通して、子どもたちが安心して、幸せに生活できる環境、ケアとはいったいどのようなものだろうかと考えました。“子どもたちにとって必要なケアとは何か”、それを明らかにしたいと思ったことが、私の研究の根底にあります。


岡本 晴美 准教授

医療福祉学部 医療福祉学科

研究テーマ
1) 福祉現場職員の人材育成に関する研究、福祉現場職員の継続的就労と専門性の形成・継承、職場環境・職員集団づくりのためのモデルの構築
2) 変容をもたらすソーシャルワーク技法に関する研究
3) いじめに対する修復的実践

“子どもたちにとって必要なケアとは何か”

 このことを出発点として、いろいろな本を読んだり、現場の方のお話を聞いたりしていました。“子どもたちのことなのだから、直接、子どもたち自身から話を聞きたい”と思いながらも、“聞く”ことによる子どもたちへの影響(心理的な負担など)を考え、躊躇していました。もちろん、施設を退所した子どもたちへのインタビュー調査などは、すでに多くの研究者が行っていました。

 しかし、私のなかでは、もう少し違う角度から考えていきたいという思いがありました。その頃、児童養護施設など、複数の児童福祉施設を訪問する機会を得るなかで、施設によって雰囲気が異なること、子どもたちがのびのび暮らしている施設もあれば、子どもたちが遠慮がちに暮らしている施設もあり、その違いは何だろうかと考えました。

 施設は、子どもたちが生活をする場です。子どもたちだけで暮らしているわけではなく、そこにかかわる現場の職員とともに、生活をつくっていくことになります。子どもたちのケアを考える以上は、提供する現場の職員について理解を深めなければ、子どもたちの生活を豊かにする道は見えてこないのではないかと考え、それ以降は、現場の職員の人材育成について焦点を当てることにしました。

社会福祉現場ではたらく専門職の人材育成

 2008年頃から、多いときには、1か月に2~3回、今でも2か月に1回程度は、児童福祉施設を訪問し、職員の方とともに、子どものケア、人を育てること、職員のはたらき方、これからの施設が目指すことなどについて話しています。

 子どものケアを考えると、職員の方が施設に長く勤務することが望まれます。子どもたちのなかには、施設を退所した後に、保護者の元に帰れる場合もありますが、自立して生きていかなければならない場合もあります。いずれの場合も、自分が育った施設は子どもにとっての“家”であり、何かあれば頼りにしたい大切な居場所です。退所後に、施設を訪ねれば、自分の養育にかかわってくれた職員がいつでも迎えてくれるという状況は、子どもにとっての支えになります。しかし、現状では、児童領域に限らず、社会福祉現場の離職率は決して低いわけではなく、職場での人間関係や労働環境などを理由に離職する職員は少なくありません。  

 職員がはたらき続けることができる職場というのは、職員にとって居心地が良く、職員を大切にしてくれる職場であり、そのような施設では子どもたちへのケアも、大変豊かであるといえます。子どもたちのケアを充実させ、豊かにするためには、職員が安心して、生き生きとはたらき続けることができる職場環境づくりが不可欠です。そのうえで、子どもたちにとっての“最善のケア”を考えていかなければなりません。

 生活の場は、人と人とがかかわる場所です。人と人がかかわるのですから、いろいろな葛藤や課題もあります。もちろん、かかわることで喜びを感じられたり、一緒にいることで体験できる楽しいこと、嬉しいこと、いろいろな発見や気づきもたくさんあります。

 子どもたちが暮らす場が、安心かつ幸せであるように、今後も引き続き、児童福祉にかかわる職員の人材育成について考えていきたいと思います。

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