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第7回2014.09.05更新

色にもいろいろあるけれど…-色の賢い使い方-

色の見え方には個人差があります

「一目で分かること」はきわめて重要です。何秒も見つめないと理解できないような道路案内標識ばかりだと交通事故が頻発しますし、教科書の最初から最後まで同じフォントで文字が書かれているとすれば、重要語句を見分けることができず、学習意欲が失せてしまいます。

 

一目で分かってもらうための工夫としては、色で情報を区別することが多いでしょう。例えば、教員の多くは色チョークを使って重要な語句や年号などを板書していますね(教員によっては異なるかもしれませんが…笑)。

 

図1 国家試験対策講座のプリントより。重要語句については下線を施したり、フォントを変えたりしていますが、色を着ければさらに一目で分かりやすくなるのではないでしょうか。

 

ただ、どのような場合でも色分けが有効とは限りません。色の見え方に不都合が生じる「色覚障がい」を知っていますか?すべての色が白・灰・黒に見えると誤解している人がときどきいますが、そうではなく、正常色覚と同じくいろいろな色が見えています。ただ、色覚障がいでは、色の見え方が正常色覚とは異なっており、大まかに言えば赤系と緑系がともに茶系に見えます(これとは違う見え方の色覚障害もあります)。そのため、これら赤・緑・茶系を見分けることが難しくなります。逆に言えば、これらの色でなければ、色の見分けに大きな不都合は生じないようです。日本人男性のおよそ5%は、が、色覚障がい(程度に個人差はあります)を持つと言われています。

赤井 俊幸 准教授

医療福祉学部 医療福祉学科

どのような場合に困るの? -授業で-

どうしたわけか、授業では赤チョークで板書したり、赤ペンで修正したりすることが多いのですが、実はこれがくせ者です。図2・上では「かんべえ」のみを赤で記しています。図2・下は、ソフトウェアを用いて色覚障害での見え方をシミュレートしたものです。色覚障害では、通常、赤が茶(この例のように、赤の色合いによっては黒)に近い色として見えますので、図2・下の「ぐんし」と「かんべえ」を色で見分けることは難しくなります。時間をかけて見比べれば見分けられないこともないのですが、それでは「一目で分かる」ことにはなりません。一目で分からなければ、ムダな時間とエネルギーが必要になりますし、「はっきり見分けられないけれども、もしかすると重要語句かも?」と緊張や不安感が高まります。状況によっては、交通事故や産業事故などにもつながりかねません。

 

したがって、色だけで情報を区別するのではなく、例えば形や大きさ、模様なども併用することが薦められます。図2の例では、「かんべえ」を四角で囲っていますので、そこが重要な箇所であることについては色覚に問題があっても分かります。

図2.上は正常色覚での見え方で、下は色覚障害での見え方です。

どのような場合に困るの? -研究で-

大学生になると、レポートや卒業論文でグラフや図を活用する機会が増えます。あるポピュラーな表計算ソフトでさくさくとグラフを作成していると、図3・上のような折れ線グラフができあがります。このグラフを色覚障害シミュレーション・ソフトウェアで変換したものが図3・中央です。「セミ」と「カエル」は見分けがつきませんし、「サソリ」の見分けにも時間とエネルギーを要します。しかし、図3・下のようにマーカーを付け、あわせて線種も変更することによって見分けは容易になります。

 

カラープリンタが普及した現在は、色で情報を区別することが多くなっています。しかし、色を使わずに形などで区別することはできないか、考えてみてもよいのではないでしょうか。正常色覚の人でも4色から6色までが一目で見分けがつく上限で、別の色も加えるとかなり見分けにくくなると言われています。慣れていないせいもありますが、東京の鉄道路線図を見ても、路線のそれぞれを一目で見分けることは私にはできません。そうであるならば、色にあまり依存しすぎないことは、色覚障害を持つ人も含め、すべての人にとっての見えやすさにつながるでしょう(「ユニバーサル・デザイン」の考え方です)。色を使わずに済むのなら、グラフの設定を変更するなどの少しの手間を惜しまず、形など別の特徴で表現することが大事だと思います。

 

ここで注意してほしいのですが、授業や研究など様々な状況で色を使ってはいけないと主張しているわけではありません。色覚障害を持つ人でも見分けることが可能な色の組み合わせであれば、用いることに支障はないでしょう。色覚障害シミュレーション・ソフトウェアやシミュレーション眼鏡(図4)によって、そのような組み合わせを客観的に確認することもできます。ただ、そのような確認は手間といえば手間ですし、ソフトウェアや眼鏡が完全に正しくシミュレートできているとも限らないようです。このようなことから考えると、形などを併用することが情報の表現における色の賢い使い方であると言えそうです。

 

図4 色覚障害をシミュレートする眼鏡です(色弱模擬フィルタ「バリアントール」 伊藤光学工業株式会社)。

 

色覚障害に関しては、以前に比べればネットなどでも様々な知識を得ることができるようになりました(下記のホームページを参考にしてください)。授業や研究以外の場でどのような不都合が生じるおそれがあるのか、そしてどのような対応が必要なのか、まとめてみてはいかがでしょうか。もちろん、研究レポートでの色の使い方には気を付けて…。

 

 

岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学)と伊藤啓氏(東京大学分子細胞生物学研究所)による「色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法」ホームページが、本記事の内容に関して充実していると思います。

http://www.nig.ac.jp/color/

また、東洋インキ株式会社による「カラーユニバーサルデザイン-誰にでも優しく理解しやすい色の見え方-」ホームページでは、本記事で用いた色覚障害シミュレーション・ソフトを入手できます(登録が必要です)。

http://www.toyo-uding.com/

図3.上は正常色覚での見え方で、中央と下は色覚障害での見え方です。

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