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第9回2015.6.15更新

音楽療法における評価について

はじめに

 携帯音楽プレーヤーの開発が進んだおかげで、私たちは時間や場所を気にすることなく、音楽が聴けるようになりました。ヒーリング効果、モチベーションの向上、ストレスの発散など、使用目的はさまざまですが、私たちは音楽の心身におよぼす影響を実感しています。


小坂 哲也 教授

医療福祉学部 医療福祉学科

研究テーマ:
1) 高齢者領域における音楽療法プログラムに関する研究
2) 障害児領域における音楽療法評価表に関する研究

音楽の効果

 音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いた音楽療法が、高齢者領域をはじめ、さまざまな領域において実践されていますが、目に見えないものを数値化して評価するということは、決して容易いことではありません。生理的な作用として、まず思い浮かべるものに、脈拍や呼吸などがあります。しかし、同じ音楽を聴いてもすべての人に同じような変化が見られるわけではありません。心理的な作用となると、まわりで見ていて「楽しそうだ」とか「悲しそうだ」と、想像の域を出ません。音楽療法が効果的であると認められるためには、評価が必要とされます。音楽療法に使用される評価は、使用される場面により大きく3つに分けることができます。

評価

①アセスメント

 アセスメントとは音楽療法の実践に必要な対象者の情報を集めて分析する作業で、プログラムを設定するうえで、音楽の好みや対象者や家族のニーズを把握する必要性から欠かせないもので、対象者をさまざまな角度で捉え、把握しておくことが重要です。

 ブルシア(Bruscia K.)は、アセスメントについて、「セラピストが、効果的な治療プログラムの計画や実施に必要なクライエントに関する情報を集め、分析するプロセスのことである。アセスメントによって、クライエントの診断状態の性質や、原因について特定の仮説が立つ場合もあるし、クライエントのパーソナリティー、問題、ニーズ、才能、可能性などについてさらに詳しく洞察できる場合もある。これらの情報はすべて、セラピストが治療の方向を決め、もっとも効果的な治療方策を立てる助けとなる」と述べています1)

 また、ブライト(Bright R.)は、「音楽療法士は、患者の身体的、社会的、知的な問題点をよく理解することが必要である」としています2)

 病状や身体状況をはじめ、精神面や社会性(取り巻く環境)について、可能な限り対象者の情報を集めることは、音楽療法を行ううえでとても重要なことと言えます。

②セッション

 セッション場面では、対象者の状態や変化を捉えるために評価します。音楽療法の評価と言えば、この評価を指すことが一般的です。ブライトは、音楽療法という観点から、評価について、「音楽療法士以外の観察者がいなくても、われわれ自身が非常に客観的に観察し、所見を述べることができるといえるのであれば、どんなにか気分がいいだろう。しかし、無意識のうちに、われわれが期待している結果にのみ注意がいってしまい、逆に、不十分な反応や相反する反応などは、われわれの希望や期待に反するので、簡単に見落としてしまうのである」と述べています3)

 さらにもう1つ、忘れてはいけないのは、プログラムの内容およびスタッフの評価です。実践されたプログラムが対象者にとって適正であったか、また、音楽療法士をはじめとするスタッフの動きは適切であったかという評価です。残念ながら、これらを扱った評価はあまり多く見られません。目標を設定し実践する以上、対象者の変化だけでなく、対象者に働きかけているプログラムそのものや実践に携わっているスタッフ(主に音楽療法士)の評価はなくてはならないものです。

③カンファレンス

 アセスメントにおいて評価したものを再評価することにより、実践による対象者の変化を、客観的に捉えることができます。これらの評価は、他職種と連携を取るうえで、有効な情報となることは間違いありません。

 

 以上、さまざまな評価について述べましたが、特にセッション場面におけるプログラムの内容やスタッフを対象とした評価は、音楽療法におけるエビデンス(効果があることを示す証拠)の構築を図るためには必要不可欠なものと言えます。

 

引用文献

1)ブルシア(林庸二監訳)『即興音楽療法の諸理論(上)』人間と歴史社、1999年、p.19

2)ブライト(小田紀子,小坂哲也共訳)『高齢者ケアにおける音楽』荘道社、2000年、p.5

3)ブライト(小田紀子,小坂哲也共訳)『高齢者ケアにおける音楽』荘道社、2000年、p.118

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