2012年06月19日

宇根研究室

宇根 瑞穂

 

広島国際大学薬学部薬学科 教授

 

2004年薬学部新設と同時に研究室を立ち上げ、
2006年から井口裕介助教が加わり、
二人体制で今日まで研究室運営にあたってきました。
現在(2012年度)、6年生8名、5年生7名、4年生7名、
合計22名の学生を抱える大所帯となり、
彼らの卒業研究を指導しながら教育研究活動を遂行しています。

 

【はじめに】

 

胆汁酸は体内のコレステロールの異化・排泄のための最終代謝産物であると同時に、
胆汁中におけるコレステロールの溶存、
腸管においては脂質の消化・吸収に必須の生理活性物質でもあります。

 

胆汁酸は肝臓でコレステロールから生成され胆管に分泌された後、
十二指腸において脂質の消化、吸収を介助・促進します。
その後、胆汁酸は回腸末端部で再吸収され95%以上が門脈を経由して再び肝臓に戻ってくるという、
いわゆる腸肝循環を繰り返します(図1)
この際、吸収されなかった一部が糞便中に排泄されます。
この糞便中に排泄された胆汁酸を補うべくコレステロールから胆汁酸が新生されることになります。
即ち、糞便中に失われた胆汁酸は形を変えて体外に排泄されたコレステロールということになります。

 


(図1)胆汁酸の役割と胆汁酸の体内動態

 

胆汁酸の腸肝循環は様々なタンパク質(酵素、トランスポータなど)によって制御・調節されていますが、
その中心的役割を演じているタンパク質がFarnesoid X Receptor(FXR)とよばれる核内受容体です。
FXRは胆汁酸が結合することによって活性化され、
胆汁酸自体の生合成、胆汁中への分泌、腸での吸収、
肝への取り込みなどの調節を行っています。
最近ではFXRは胆汁酸の代謝だけでなく、
糖質、脂質の代謝にも関与するという興味深い研究結果も示されています(図2)

 

一方で、胆汁酸は細胞膜に存在するGタンパク質結合型受容体、
TGR5に結合し、FXRとはまったく別の機構を介してエネルギー代謝を高めることも示されました。
これら一連の研究結果を背景にFXR及びTGR5は代謝性疾患の創薬ターゲットとして注目されています。

 


(図2)胆汁酸によるFXR及びTGR5を介した糖質、脂質、エネルギー代謝調節機構

 

【当研究室の研究内容】

 

「代謝性疾患の新規予防・治療薬の開発に関する基礎的研究」

 

当研究室において、FXR及びTGR5の強力な作用薬を見出すことを目的として、
天然に存在する胆汁酸、胆汁アルコール、及びトリテルペノイドなど網羅的に探索し、
これら受容体との構造活性相関について検討をしてきました。
その結果、天然に存在するほとんどの胆汁酸、
胆汁アルコールはFXRとTGR5のいずれに対しても同程度の活性を持つことが明らかとなりました。
しかし、民間薬として古くから用いられている熊胆の主成分であるウルソデオキシコール酸のように7b-水酸基を有する胆汁酸はFXRに対する活性が低いことを見出しました。

 

そこで、TGR5に対し高い選択性を示す化合物を見出すことを目的として、
化学修飾した様々な胆汁酸アナログを調製、検討したところ、
7位にアルキル基(メチル基、エチル基)を導入した胆汁酸に高いTGR5アゴニスト活性及び選択性が認められました。
これら7-アルキル胆汁酸の生理的作用については現在検討を進めています。

 

・本研究に関する研究成果

 

1. Structure-activity relationship of bile acids and bile acid analogs in regard to FXR activation.
T. Fujino, M. Une, T. Imanaka, K. Inoue, and T. Nishimaki-Mogami.
J.Lipid Res. 45:132-138(2004)

 

2. Identification of intermediates in the bile acid synthetic pathway as ligands for the farnesoid X receptor.
T. Nishimaki-Mogami, M. Une, T. Fujino, Y. Sato, N. Tamehiro, Y. Kawahara, K. Shudo, and K. Inoue.
J.Lipid Res. 45:1538-1545(2004)

 

3. 5α-Bile alcohols function as farnesoid X receptor antagonists.
T. Nishimaki-Mogami, Y. Kawahara, N. Tamehiro, T. Yoshida, K. Inoue, Y. Ohno, T. Nagao, and M. Une.
Biochem.Biophys.Res.Commun. 339:386-391 (2006)

 

4. Novel potent and selective bile acid derivatives as TGR5 agonists: Biological screening, structure-activity relationships and molecular modeling studies.
H.Sato, A.Macchiarulo, C.Thomas, A.Gioiello, M.Une, A.F.Hofmann, R.Saladin, K.Schoonjans, R.Pellicciari, and J.Auwerx.
J.Med.Chem. 51(6):1831-1841 (2008)

 

5. Structure-activity relationship of bile alcohols as human farnesoid X receptor agonist.
Y. Iguchi , K. Kihira, T. Nishimaki-Mogami and M. Une.
Steroids 75: 95-100 (2010)

 

6. Bile alcohols function as the ligands of membrane-type bile acid-activated G-protein-coupled receptor.
Y. Iguchi, K. Kihira, T. Nishimaki-Mogami, M. Yamaguchi and M. Une.
J.Lipid Res. 51:1432-1441 (2010)

 

7. Effects of chemical modification of ursodeoxycholic acid on TGR5 activation.
Y. Iguchi, T. Nishimaki-Mogami, M. Yamaguchi, F. Teraoka, T. Kaneko and M. Une
Biol.Pharm.Bull 34:1-7 (2011)

 

その他学会発表など多数有り

 

「胆汁塩の比較生化学的研究」

 

脊椎動物におけるコレステロールの最終代謝産物を総称して胆汁塩と呼びます。
現在までに数多くの動物種の胆汁中胆汁塩が調査され、系統的に整理されております。
以下、簡単にご紹介したいと思います。

 

ヒトを含めた哺乳動物におけるコレステロールの最終代謝産物は胆汁酸であることは先にも述べました。
しかし、哺乳動物に見出されている胆汁酸は多種、多様で、
種属間で種類、組成に極めて顕著な差異があることが明らかとなっています。
更に、魚類、両生類のようなより下等な脊椎動物では、
コレステロールの最終産物は胆汁酸ではなく、
胆汁アルコールとよばれる中性のポリヒドロキシステロイド、
爬虫類などでは高級胆汁酸と呼ばれる胆汁酸のC27-ホモログが胆汁中に分泌されていることを我々の研究グループが中心となって明らかにしてきました。
脊椎動物は様々な形でコレステロールを体外に排泄していることは興味深い知見といえます。

 

ヒトを含めた哺乳動物のコレステロールから胆汁酸が生合成される経路を(図3)に示しました。
下等脊椎動物の胆汁塩は、
化学構造的にみると哺乳動物における胆汁酸生合成経路の中間代謝物に位置するもので、
哺乳動物の胆汁酸生合成経路は脊椎動物の進化に伴う胆汁塩の変遷を再現していると捉えることが出来ます。
脊椎動物は、コレステロールを体外に排出する為に、
より水溶性の高い化合物に代謝する経路を獲得しました。
そして、進化に伴なって新たな酵素系を順次獲得し、
より効率の良い化合物、即ち、胆汁アルコールから高級胆汁酸へ、
そして最終的に哺乳動物の胆汁酸へと変化してきたと推論することが出来ます。

 


(図3) 哺乳動物におけるコレステロールから胆汁酸の生合成

 

下等脊椎動物から哺乳動物まで幅広い調査研究の結果、
上述のような脊椎動物の進化と胆汁塩の化学構造の変遷に一定の法則性を見出すことが出来ました。
しかし、鳥類については未だ調査が不十分ですし、
また、特別な生存環境にある珍しい動物には未だに報告されていない新規胆汁塩が存在するのではないかと興味が持たれます。
一方、系統発生だけでなく、個体発生的観点からの研究アプローチにも取り組んできました。
最近、無脊椎動物に胆汁アルコールが存在し、ホルモン様の作用をしているとの報告もあり、
胆汁塩の新たな生理・薬理作用という観点からも興味深い化合物と考えています。

 

【おわりに】

 

近年の分析機器の進歩には目覚しいものがあり、
簡便で迅速、かつ高精度の分析が可能になっただけでなく、
以前の分析手法では得られなかった情報も得られるようになりました。
現在も未だ調査されていない動物種の分析に加え、
これら胆汁塩の分析手法を応用してヒトにおける先天性代謝異常症、
各種肝疾患の早期発見、診断法の確立に向けて研究を進めて行きたいと考えています。
また、天然に存在する胆汁塩或いは、これらをシード化合物とした新たな化合物を創製し、
脂質、糖質代謝に関わる核内受容体、
膜受容体をターゲットにしたアゴニスト或いはアンタゴニストを探索することにより、
メタボリックシンドロームの予防、治療薬の開発に繋げたいと考えております。

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