2012年10月23日

近藤研究室

私たちの研究室では、老年看護学に関連する教育方法や評価の研究、
看護職員の倫理や、看護管理学に関する研究、などに取り組んでいます。それらの一つを紹介します。

 

看護職員の倫理的問題に関する研究

 

医療の高度複雑化、人びとの健康意識や権利意識の高まりなど社会状況の変化は、
医療現場における倫理へも影響を与えています。
日本では1990年代からインフォームド・コンセント(以下ICと略す)の重要性が指摘され、
医師を中心に患者・家族へのICが行われるようになりました。
しかし現実には、医師の説明が理解できなくても、「お任せします(お願いします)」と、承諾する現状もみられています。
そのような臨床の中で看護師は、様々な倫理的問題に直面しながらも、
患者・家族に対する権利擁護者としての役割が求められています。

 

医療現場の倫理に関しては、国際看護師協会(ICN, International Council of Nurses 1973)が、
1988年に日本看護協会が看護師の倫理綱領を出し、看護職者の行動指針を明確にしたことに始まります。
しかし国内における倫理に関する研究を概観すると、
1995年までは数編しかなかった研究が、その後飛躍的に増加しています。

 

今回、看護師の背景が異なる2研修会(認定看護管理者研修、臨床実習指導者研修)の受講者を対象に、
臨床で遭遇する倫理的問題の認識について調査しました。
対象は、2010年度A県看護協会が開催した認定看護管理者研修(ファーストレベル)受講者57名(以下A群)と
臨地実習指導者研修37名(以下B群)です。
2010年8月に臨床の場で直面する倫理的問題と認識している場面について自由記述を依頼しました。
内容の分析には、記述された類似内容をグルーピングし、カテゴリー化を行いました。

 

分析対象は、認定看護管理者研修受講者57名、臨床指導者研修受講者34名です。
図1は研修会別年代別割合を、図2は職位別割合を示しています。
A群(内はB群の割合を示す)の年代は30歳代25%(51%)、 40歳代65%(24%) 、50歳代10%(11%)でした。
職位別の割合は、スタッフ37%(65%)、副師長56%(13%)、師長3%(8%)、その他2%(13%)でした。

 


図1 A・B群別年代別割合(%)

 


図2 A・B群別職位別割合(%)

 

A・B群の受講者が倫理的問題として認識したカテゴリーを表1に示しました。
A群の受講者の記述からは、『医療における患者・家族への情報提供』『医療への参加に対する患者や家族の思い』
『快適な療養環境の提供』『退院後の受け入れ』『医師との関係』『生死の決定』
『看護師自身の能力と業務の困難さ』『看護師間の関係』の8カテゴリーが抽出できました。
他方、B群の受講者の記述からは、『医療における患者・家族への情報提供』『快適な療養環境の提供』
『医師との関係』『相いれない患者と家族の要求』『代弁者としての看護者の弱さ』
『看護の提供内容』『看護師間の関係』『他職種と業務内容の不明確さ』の8カテゴリーを抽出しました。
両群に共通しているカテゴリーは『医療における患者・家族への情報提供』『快適な療養環境の提供』
『医師との関係』『看護師間の関係』4カテゴリーでした。
異なるカテゴリーは、A群は『医療への参加に対する患者や家族の思い』『退院後の受け入れ』
『生死の決定』『看護師自身の能力と業務の困難さ』、
B群は『相いれない患者と家族の要求』『代弁者としての看護者の弱さ』
『看護の提供内容』『他職種と業務内容の不明確さ』でした。

 


表1 A・B群別抽出した倫理的問題のカテゴリー

 

背景の異なる2つの研修受講者は、それぞれの立場で共通、あるいは異なる倫理的問題をもち、
業務を行っていることが明らかとなました。
共通する倫理的問題の多くは、医師によるICが十分に行われていないことに関連する内容であることが分かります。
ICに関しては、十分に情報を説明したと考えている医師と、
まだ患者や家族に情報の提供が不十分ととらえている看護師側とに温度差があることが理解できます。
高齢者の入院が多く、家族も高齢化している中でおこなわれるICは、
一通り説明だけでなく、その都度詳細な説明が必要であることや、情報をこまめに提供することの重要性を示しています。

 

両群の異なるカテゴリーからは、A群は患者の生死や退院後の行き先など、
管理的な内容に対する倫理的問題をあげているのに対し、
B群は質の高い看護が提供されているか否かを自分に問いかけている項目や、
医師以外の他職種との業務分担に関する内容をとらえています。
このカテゴリーの違いは、研修目的の違いからくる受講者の年代や職位が影響しています。
A群は管理者研修であり年齢も40歳代以上の副師長クラスの受講者が多く、
他方B群は、30歳代が半数を占めスタッフの受講者です。
直面している倫理的問題も、職位や年代により業務内容や責任の程度が異なりますので、
倫理的問題の認識も異なっていることが明らかとなりました。
今後、倫理的問題に関する研修を行う場合には、職位や年代等を考慮した、
その立場にあった研修計画立案が必要と考えられます。

 

看護学部 看護学科 近藤裕子教授

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