2012年12月03日

長田研究室

[はじめに]

東京大学薬学部薬化学教室を卒業し、塩野義製薬で製剤設計・DDS・品質保証などの研究および職責を果たした後、
2005年より当大学の薬学部製剤学教室の教授として教育および研究に携わっています。
製薬会社での長年の研究を背景に、「薬」がどのようにして創造され、商品化され、品質が管理されているかを教えています。
また、これまでに欧米、インド、中国、台湾の製薬企業をのべ50社以上訪問し、
これらの国で開催された国際学会に参加してきた経験から、世界の製薬産業の事情も学生に教えるようにしています。

 

研究室は、私と田中佑典助教との二人で運営しています。
2012年9月現在で、6年生8人、5年生7人、4年生7人の所帯です。

 

当研究室では、すべての学生が可能な限り実験にかかわるように指導しています。
学生には研究に携わるにあたって、
「研究において、データの収得には常に精密さと大胆さを合わせ持ち、前向きな態度で向い、データに対しては率直で謙虚であること」
を教えています。

 

研究テーマによっては、企業との共同研究とか、市販されている医薬品の品質の解析を行うことがあります。
研究成果には責任が発生することが多く、実習の延長の気分で研究を行うことを厳しく戒めています。

 

[研究テーマ]

当教室の研究テーマとして、製剤設計論とレギュラトリーサイエンスを掲げています。
個人的には、硬カプセル剤の専門家でもありますが、こちらについては、大学では設備などを用意できていないため、
主に海外の企業を指導して、研究を行っています。

 

製剤設計論

所定の薬理作用を有し、副作用の少ない化合物が、医薬品なのではありません。
そのような化合物を安定化し、取扱いやすく、さらに体内の必要な場所に必要な量を望ましい速度で送達させるように、
添加剤などを加えて加工(包装も含まれます)したものが医薬品です。
英語では、簡単には、” a molecular is not a drug”と言います。
建物を建てるのに設計が必要なのと同じように、医薬品を創造するには、設計図が必要です。
簡単な例を挙げると、錠剤か注射剤にするのかを決めるのも製剤設計です。
製剤設計は、図1のように多くの情報と知識をもとに行います。
製剤設計論には、製剤設計の全体を俯瞰する考え方と各論の研究があります。
前者については、「戦略的製剤設計」の考え方を推奨しています。
また、製造などの委受託先の候補地の選定も製剤設計の一環です。
例えば、医薬品の原薬(例えば,アスピリンやインドメタシンなどの薬理活性成分)は、
合成の方法または場所が変更になれば、不純物の種類とその量、または主薬の粒子径(結晶形が変わってはいけません)が変わります。
これらは、医薬品としての安定性や効き方に影響するため、変更時には慎重さが要求されます。

 

     図1 製剤設計に必要な情報

 

最近調査した例にインドがあります。
世界の医薬品製造の拠点基地および市場としてインドが着目されています。
しかし、数年前までは、国内企業はインドへの参入は積極的ではありませんでした。
数年にわたってインドの医薬品産業の実態を調査し、問題点と今後期待できる点についてまとめた結果、
世界のジェネリック医薬品および開発途上国向けの医薬品の供給拠点としてインドは益々期待できることがわかりました。
一方、日本の医薬品開発および品質は国際的には上位にあります。
しかし、医薬品としての機能に直接的に関係しない品質が良くても、価格が高ければ、国際的には通用しません。
これまでは国内の医薬品の高品質は海外企業にとっては障壁となり、海外企業は日本用に特別に製造していました。
医薬品の製造において、日本が世界にとって「ガラパゴス」状態にあることがとても心配されます。

 

各論の研究は、「難溶解性薬物の経口投与製剤化」の研究を実施しています。
この分野についての製剤学的な手法には、微粒子化、エマルション化、固体分散体、Cocrystalなど種々の手法がありますが、
現在取り組んでいるのは、微粒子化です。
当大学の立地に近いコトブキ工業(株)が湿式粉砕の優れた微粒子製造装置を開発されていますので、
その装置をお借りして、いくつかの薬物についてナノサイズまで微粉化し、消化管からの吸収性の増加を確認しました。
ナノサイズの薬物が直接吸収されるのではありません。
小さくすることにより、薬物の表面積を飛躍的に増加させて、溶けやすくすることができます。
本装置でのナノサイズ化で重要なことは、粒子を単にナノサイズまで砕くだけでなく、
微粒子の表面の性質を改善可能なことにあります。
表面改質によって、溶解性がさらに高まり、再凝集を妨げることができます。
イメージを図2に示しました。
図3は、albendazoleのナノ粒子のラットの消化管からの吸収性を調べた結果です。
対象として、元の粒子単独と、添加剤F-68との混合物と比較しています。
Albendazoleの吸収性はナノ粒子にすることにより、元の粒子単独に比して約10倍吸収性がよくなりました。

 

       図2 ナノ粒子化と表面改質

 

図3 Albendazoleのラット消化管からの吸収性(製剤設計の6)の論文からの抜粋)

 

本研究から派生した研究に、医薬用の無機色素の微粒子化があります。
こちらは、癸巳化成(株)との共同研究ですが、錠剤やカプセル剤の色調がより鮮明になり、
インクジェットを使用した印字への適用につながります。
有機系の色素は、国によって使用可能な種類が複雑ですが、無機色素はいずれの国でもほぼ共通なため、汎用性が高いです。

 

レギュラトリーサイエンス

医薬品産業は、数々の規制に縛られています。
しかし、それらの規制は科学的な裏付けのもとに決定されるべきです。
レギュラトリーサイエンスを簡単に説明すると、「規制を科学する」ことになります。
医薬品に携わる方が関係する事例としては、
生物学的同等性試験(例えば,先発医薬品とジェネリックとの相同性など)、
日本薬局方の項目の数値(含量試験や溶出試験などの繰り返し数や規格値)などが代表的です。

 

具体的には、患者さん等が先発品からジェネリック品に切り替えた時に、
品質または薬効の発現等に疑問を持っておられる医薬品のリストから、
いくつかの代表的な製品について、品質の確認を行っています。
また、新規の種々の製剤についても独自に試験を行い、評価しています。
これらの研究結果は可能な限り情報をオープンにしています。

 

近年開発されつつある新薬の中に多数の抗体医薬品があります。
抗体医薬品はその製造方法、薬理作用、安定性など、従来のタンパク質医薬品とは異なった点が多く、
従来の品質の情報・方法ではカバーしきれません。
新たな、品質の確認手法が必要とされています。
特に、これらの医薬品の後続品(ジェネリックは後発品ですが、
後続品は英語ではbio-similarといいます)の開発も進んでおり、早急に準備する必要があります。
モデルタンパク質を使って、評価系の構築の準備にかかっています。

 

また、レギュラトリーサイエンスは地域との連携のなかで考えるべき問題と思います。
製薬会社とは、異なった視点で医薬品の品質を考えることにより、医薬品の副作用または薬害を未然に防止することができます。
すべての医療機関が医薬品の品質を確認する手段を持つことは不可能であり、大学がその一翼を担うことは重要です。

 

最後に関係する論文類を揚げました。

 

-DDS-

1) 竹島和男、砂川則男、長田俊治、平野耕一郎、高岸靖:生分解性高分子マイクロスフェアからの薬物の放出性に及ぼす形態的特性の影響,薬学雑誌,112, 203-210, (1992).
2) Kazuyoshi Masuda, Shunji Nagata, Shigenori Harada, Koichiro Hirano, Yasushi Takagishi : Monoclonal antibodies against human α-fetoprotein more reactive to cell-surfaceα-fetoprotein than to free α-fetoprotein, Microbiol. Immunol., 36, 873-884, (1992).
3) Shunji Nagata, Kazuyoshi Masuda, Hideo Nogusa, Koichiro Hirano, Yasushi Takagishi : New application of human tumor clonogenic assay to in vitro evaluation of tumor-targeting efficiency of immunoconjugates, Chem. Pharm. Bull. , 40, 2151-2154, (1992).
4) Kazuyoshi Masuda, Shunji Nagata, Koichiro Hirano, Yasushi Takagishi, Hidematsu Hirai : Elevated serum α-fetoprotein level of nude mice bearing hepatoma cells by treatment with monoclonal antibodies to α-fetoprotein, Biochim. Biophys. Acta., 1182, 128-132, (1993).
5) Kazuyoshi Masuda, Shunji Nagata, Koichiro Hirano, Yasushi Takagishi, Hidematsu Hirai : Cytotoxicity induced by monoclonal antibody to α-fetoprotein coadministered with spleen cells of nude mice, Microbiol. Immunol., 37, 165-167, (1993).
6) 益田和義、長田俊治、平野耕一郎、高岸靖:抗α-フェトプロテインモノクロナール抗体をキャリアとするイムノトキシン,Drug Delivery System, 9, 13-18, (1994).
7) Kazuyoshi Masuda, Kouji Takahashi, Shunji Nagata, Koichiro Hirano, Yasushi Takagishi : Immunotoxins composed of monoclonal antibody toα-fetoprotein and gelonin as a potent hepatoma-targeted drug delivery system, J. Drug Targeting, 2, 323-331, (1994).
8) 長田俊治、竹島和男、平野耕一郎、高岸靖:乳酸・グリコール酸共重合体のマイクロスフェアの製剤設計;ゲンタマシンのin vitroの放出性の解析,薬学雑誌,114, 1005-1014, (1994).
9) Shunji Nagata, Kazuyoshi Masuda, Hideo Nogusa, Koichiro Hirano, Yasushi Takagishi : Absence of lysosomal cleavage in cytotoxicity mechanism of immunoconjugate composed of anti-α-fetoprotein monclonal antibody and vindesine analog, Biol. Pharm. Bull., 19, 480-483, (1996).
10) Eri Kanaoka, Shunji Nagata, Koichiro Hirano : Stabilization of aerosolized IFN-g by liposomes, Inter. J. Pharm., 188, 165-172, (1999).
11) Toshiyuki Sakaeda, Takumi Nakamura, Masanobu Hirai, Takashi Kimura, Akio Wada, Takashi Yagami, Hiroshi Kobayashi, Shunji Nagata, Nobuo Okamura, Takayoshi Yoshikawa, Tamotsu Shirakawa, Akio Goto, Manabu Matsuo, Katsuhiko Okumura : MDR1 up-regulated by apoptotic stimuli suppresses apoptonic signaling, Pharm. Res., 19, 1323-1329, (2002).

 

-硬カプセル-

1) 長田俊治:カプセル剤の最近の話題, PHARM TECH JAPAN,15, 1-4, (1999).
2) 上野雅男、長田俊治:わが国におけるカプセル剤の調査結果, PHARM TECH JAPAN, 15, 5-9, (1999).
3) 長田俊治、西邦夫、栃尾信治:新規硬カプセルの基礎特性, 製剤機械技術研究会誌, 8, 5-11, (1999).
4) Shunji Nagata, Kunio Nishi, Seinosuke Matsuura : Characteristics of HPMC capsules, International Symposium Strategies for Optimizing Oral Drug Delivery: Scientific to Regulatory Approaches, Proceedings p.161, (1999).
5) Shunji Nagata : Cellulose capsules – an alternative to gelatin, Third International Symposium on Frontiers in Biomedical Polymers Including Polymer Therapeutics, Abstracts p.28, (1999).
6) Shunji Nagata, Brian E. Jones : Hard two-piece capsules and the control of drug delivery, Eur. Pharm. Review, 5, 41-46, (2000).
7) Shunji Nagata : Advantages to HPMC capsules: a new generation’s hard capsule, Drug Delivery Technology, 2, 34-39, (2002).
8) 栄田敏之、中村任、奥村勝彦、栃尾信治、長田俊治:ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルの溶出特性, 医療薬学,28, 594-598, (2002).
9) 長田俊治:セルロース硬カプセル,製剤機械技術研究会誌,11, 321-328, (2002).
10) Shinji Tochio, Akane Kida, Satoshi Sakuma, Shunji Nagata, Shinji Yamashita : The influence of the type and concentration of ions in the test media on the dissolution of acetaminophen from HPMC capsules, Winter Symposium & 11th International Symposium on Recent Advances in Drug Delivery Systems, Proceedings p.124, (2003).
11) C.Tuleu, M.K. Khela, D.F. Evans, B.E. Jones, S. Nagata, A.W. Basit : A scintigraphic investigation of the disintegration behavior of capsules in fasting subjects: A comparison of hypromellose capsules containing carrageenan as a gelling agent and standard gelatin capsules, European J. Pharmaceutical Sci., 30, 251-255, (2007).

 

-製剤設計-

1) 長田俊治、高田頼一、糸賀鋭次、小倉敏弘、高岸靖:ビーグル犬の胃内液酸度, 薬剤学, 55, 70~74, (1995).
2) Toshiyuki Sakaeda, Noboru Okumura, Shunji Nagata, Fumiyoshi Yamashita, Mitsuru Hashida : Molecular properties of orally absorbed drugs in human, International Symposium Strategies for Optimizing Oral Drug Delivery: Scientific to Regulatory Approaches, Proceedings p.137, (1999).
3) Toshiyuki Sakaeda, Noboru Okumura, Shunji Nagata, Tasuro Yagami, Masanori Horinouchi, Katsuhiko Okumura, Fumiyoshi Yamashita, Mitsuru Hashida : Molecular and pharmacokinetic properties of 222 commercially available oral drugs in humans, Biol. Pharm. Bull., 24, 935~940, (2001).
4) 長田俊治:戦略的製剤設計, PHARM TECH JAPAN, 21, 2335-2361, (2005).
5) 長田俊治:消化管吸収の最新研究:エマルション製剤, PHARMSTAGE, 5, 85-92, (2006).
6) Y. Tanaka, M. Inkyo, R. Yumoto, J. Nagai, M. Takano, S. Nagata :  Nanoparticulation of poorly water soluble drugs using a wet-mill process and physicochemical properties of the nanopowders, Chem. Pharm. Bull., 57, 1050-1057, (2009).
7) Yusuke Tanaka, Mitsugi Inkyo, Ryoko Yumoto, Junya Nagai, Shunji Nagata : Evaluation of in vitro dissolution and in vivo oral absorption of drug nanopowders prepared by novel wet-milling equipment, Current Nanoscience, 6,571-576, (2010).
8) Y. Tanaka, M. Inkyo, R. Yumoto, J. Nagai, M. Takano, S. Nagata : Nanoparticulation of probucol, a poorly water-soluble drug, using a novel wet-milling process to improve in vitro dissolution and in vivo oral absorption, Drug Dev. Ind. Pharm., 38, 1015-1023, (2012).
9) Y. Tanaka, T. Hara, R. Waki, S. Nagata ; Regional differences in the components of luminal water from rat gastrointestinal tract and comparison with other species, J. Pharm. Pharmaceut. Sci., 15, 510-518, (2012).

 

-インド-
1) 長田俊治:インド考, PHARM TECH JAPAN, 23, 1969-1972, (2007).
2) 長田俊治:不可思議な国:インド, PHARM TECH JAPAN, 24, 2379-2382, (2008).
3) 長田俊治:アジア製剤研究事情―インドの動向―製剤機械技術研究会誌, 20, 298-302, (2011).
4) 長田俊治:インドの医薬品産業の現状と課題, 大阪医薬品協会 会報 第756号, 24-54, (2011).

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