2013年02月18日

二宮研究室

はじめに

研究室といっても「金もない・時間もない・人手もない」現状ですから、
特に学内でプロジェクトを組んだりして何がしか立派なことをやっているわけではありません。
卒研や修士・博士課程で研究室に来られた学生さん達を中心として、
主に学外の研究者や臨床家の皆さんと交流しながら、
臨床工学分野の周辺で面白そうなテーマを見つけてアイディア一発勝負で楽しく研究に取り組んでいます。

というわけで、専門分野にこだわらず色んなことをやっているのですが、
このブログでは、私の研究室と広島大学医学部心臓血管外科が共同開発し、
2011年度日本人工臓器学会技術賞を受賞した、
体外循環技術教育用仮想患者シミュレータECCSIMについて紹介します。

 

1.ECCSIM (Extra-corporeal Circulation Simulator)の特徴について

ECCSIMは、体外循環操作の評価と教育に適用するため、
臨床で用いられる人工心肺装置(実物)の操作情報を収集、
回路抵抗を調節する機能を持つ模擬循環回路と、
人工心肺操作に対する生体反応を再現する仮想患者モデル・模擬循環回路制御プログラム(ソフトウェア)を
内蔵したコンピュータで構成されるシミュレータシステムです(Fig.1)。
操作者はシステムが提示する生体情報をモニタリングしながら、
臨床と同様の人工心肺装置の操作を行なうことができます。
さらに指導者側からのシミュレータ操作または内蔵されたシナリオに基づくトレーニングの実施も可能です。

 
Fig.1 システムの構成                                        Fig.2 模擬循環回路の外観

 

私達のシステムと類似した構成を持つシステムとして、
ORPHEUS Perfusion Simulator.( ULCO Technologies.)があります(Fig.2)。
米国で運営されている体外循環シミュレーション施設の大半に本システムが導入されています。
このシステムは、施設のバイタルサインモニタなどのモニタ機器に対して
直接圧力信号等を送ることが出来る点で著者らのシステムより優れています。
しかし、本システムは体外循環操作において肺および心臓に対する
負荷のコントロール指標となる肺動脈圧(PAP)などの体内各部の圧力を表示することができない仕組みとなっています。
他にも、Abiomed 社、 Mid Western大学などが同様の目的のシミュレータシステムを開発していますが、
広く普及するに至っていません。

これらと比較し、本システムは心機能・血管制御モデルを含む
血行動態シミュレーションモデルを内蔵しており、
体格や症例の違いによる生体反応のバリエーションを疑似体験でき、
シナリオ実行機能が搭載されている世界唯一のものであると考えられます。

 

2. シミュレーション施設教育への導入実績とこれからの展開

2008年4月、テルモ・メディカルプラネックス・イーストにおける
人工心肺装置の適正使用のための実技講習「テルモ・パフュージョン・アカデミー」に本システムを導入しました(Fig.3)。
2010年度には、参加者数は約170名、開催件数約50回、参加施設数約50施設に達しています。

 
Fig.3 テルモ・メディカルプラネクスに設置されたECCSIM

 

2011年4月には、Upstate Medical Universityの要請により、
ECMOのシミュレーショントレーニングに適用するためにLaboratory modelを提供しました(Fig.4)。
また、PPDC(米国体外循環教育プログラム指導者会議)の要請により、
49h AmSECT International Converence(第49回米国体外循環医学会国際大会)にて
装置実物を持ち込んでの展示発表を行いました(Fig.5)。
さらに、2012年3月から、テルモ株式会社とSingapor National Heart centerが共同して実施する
シンガポールにおける体外循環シミュレーション教育プログラムの構築プロジェクトに対して
シミュレータ構築および運用に関する学術指導を実施しています。

 
Fig.4 UstateUniversityに設置されたECCSIM              Fig.5 49th AmSECT International Conferenceにて

 

このように、このシステムは養成校、病院施設、学会セミナーだけではなく、
シミュレーション教育施設へ導入されることで、日本発の本格的な高再現性体外循環シミュレータとして、
国内のみならず海外からも高い期待がよせられています。
今後は、医療の質と安全を向上させるためのシミュレーション教育環境および継続的な開発環境の構築、
若手研究者、開発者の育成を目指していこうと考えています。

 

関連文献一覧(共著も含む)
1) Tokaji M, Ninomiya S, Kurosaki T, Orihashi K, Sueda T. An educational training simulator for advanced perfusion techniques using a high-fidelity virtual patient model. Artif Organs;36(12):1026-35. 2012
2) 岡村直哉、岡原重幸、松本和希、黒崎達也、末田泰二郎、二宮伸治. 送血フィルタ入口圧と人工肺出口圧の関係に関する実験的検討. 体外循環技術; Vol.39, No.1:70-4.2012
3) The virtual patient simulator for the perfusion education in Japan. Indian Journal of Extra-Corporeal Technology; 21(1):12-17. 2011
4) 岡村直哉、徳嶺朝子、黒崎達也、末田泰二郎、二宮伸治. 遠心ポンプの圧―流量特性による心負荷モニタリングの可能性. 体外循環技術; Vol.38, No.4:503-505. 2011
5) 徳嶺朝子, 二宮伸治, 原和信, 岡村直哉, 戸梶めぐみ, 黒崎達也. 脳循環モデルを付加した体外循環教育用シミュレーションシステムの検討. 体外循環技術; Vol.38,No.1:67-71. 2011
6) 戸梶めぐみ, 二宮伸治, 徳嶺朝子, 黒崎達也, 末田泰二郎. 体外循環教育用高再現性仮想患者シミュレータのための心機能制御モデルの検討体外循環技術; Vol.38, No.1:59-66. 2011
7) 細木政載、 戸梶めぐみ、 徳嶺朝子、 黒崎達也、 末田泰二郎、 二宮伸治. 体外循環教育用シミュレータにおける送血方式選択のためのユニバーサル回路の有用性に関する検討. 体外循環技術、Vol.38,No.2:215-218 2011
8) Tokumine A, Ninomiya S, Tokaji M, Kurosaki T, Tomizawa Y. Evaluation of basic perfusion techniques, ECCSIM-Lite simulator. The Journal of extra-corporeal technology; 42(2):139-44. 2010
9) 戸梶めぐみ、二宮伸治、徳嶺朝子、黒崎達也. 体外循環シミュレータ用仮想患者モデルに対する血管・心拍数制御の導入と検討. 体外循環技術.; 37(1):1-4. 2010
10) 二宮伸治、戸梶めぐみ、徳嶺朝子、黒崎達也. 患者血行動態の維持を課題としたシミュレーショントレーニングの有効性について. 体外循環技術; 37(1):37-41. 2010
11) Ninomiya S, Tokaji M, Tokumine A, Kurosaki T. Virtual patient simulator for the perfusion resource management drill. The Journal of extra-corporeal technology;41(4):206-12. 2009
12) 徳嶺朝子, 二宮伸治, 安野誠, 赤地吏, 新秀直, 新美保子, 冨澤康子. 体外循環技術教育セミナーにおける教育用シミュレータの適用. 体外循環技術 35(3): 343-7 2009
13) 戸梶めぐみ, 二宮伸治, 徳嶺朝子, 黒崎達也. 患者基本情報に基づく体外循環シミュレータの血行動態パラメータ変更方法の検討. 体外循環技術、36(1): 24-7 2009
14) 戸梶めぐみ、二宮伸治. 教育用透析技術シミュレータ開発のための仮想患者モデルの構築. 人工臓器;
38(1): 78-81. 2009
15) Tomizawa Y, Tokumine A, Ninomiya S, Momose N, Matayoshi T. Quantitative evaluation of hand cranking a roller pump in a crisis management drill. J Artif Organs;11(3):117-22.2008
16) Ninomiya S, Tokumine A, Yasuda T, Tomizawa Y. Development of an educational simulator system, ECCSIM-Lite, for the acquisition of basic perfusion techniques and evaluation. J Artif Organs;10(4):201-5.2007

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