2012年05月14日

島谷研究室

島谷 智彦

 

広島国際大学看護学部看護学科 教授

 

わたしたちの研究室では、広島大学医学部をはじめとする国内の他施設と共同で、
ヘリコバクターピロリと胃酸分泌、加齢と胃酸分泌、
胃食道逆流症の病態と治療および胃酸分泌抑制薬のより効果的な投与方法などをテーマに研究を行っています。
今回は、それらのうちのいくつかについて、簡単に紹介させていただきます。

 

1. ヘリコバクターピロリと胃酸分泌

 

(1) 日本人若年者のヘリコバクターピロリ感染率

 

わが国におけるヘリコバクターピロリ感染率は、
1960年代生まれを境に大きく変化し、
それ以前の生まれでは70%以上と開発途上国なみに高率である一方で、
1970年代以降の生まれでは30%以下と欧米先進国なみになっています。
ヘリコバクターピロリ感染の大部分は、
幼少時とくに2才ぐらいまでに成立することより、
これらは幼少時を過ごした衛生環境を反映した結果と考えられています。
わたしたちは1970年以降に生まれた若年者のヘリコバクターピロリ感染率を病理組織学的および血清学的に調査しました。
その結果、1970年代前半生まれでは19.9%であるのに比べ、
1970年代後半生まれでは14.0%、
1980年代前半生まれでは11.3%と急激に低下していることを明らかにしました(図1)。

 

[関連文献]
1) 島谷 智彦, 田妻 進, 井上 正規. 日本臨床 63(Suppl 11): 167-171, 2005.
2) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Keiko Iwamoto, et al. J Gastroenterol Hepatol 20: 1352-1357, 2005.

 

図1 日本人若年者のヘリコバクターピロリ感染率

(2) ヘリコバクターピロリ感染と胃酸分泌能

 

ヘリコバクターピロリ感染が胃粘膜萎縮の主な原因であることが明らかになり、
加齢の要因が大きいとされていた高齢者の胃酸分泌能の低下も再評価が必要になりました。
わたしたちは、ヘリコバクターピロリ感染、胃粘膜萎縮および胃酸分泌能の関係を明らかにする目的で、
若年者と高齢者を対象に24時間胃内pHモニタリングを施行しました。
その結果、高齢者の胃酸分泌能の低下は長期間にわたるヘリコバクターピロリ感染による胃粘膜萎縮に伴う変化であり、
一方ヘリコバクターピロリ陰性者では加齢による胃酸分泌能の低下がみられないことを明らかにしました(図2、3)。
また、胃粘膜萎縮の進行に伴いまず夜間の胃酸分泌が低下し、
続いて日中の胃酸分泌が低下することも明らかにしました(図2)。

 

[関連文献]
1) 島谷 智彦, 井上 正規, 堀川 陽子, 他. 胃分泌研究会誌 31: 1-4, 1999.
2) 島谷 智彦, 井上 正規, 堀川 陽子, 他. 日本高齢消化器医学会議雑誌 1: 42-46, 1999.
3) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Hitoshi Yokoya, et al. J Gastroenterol 38: 164-169, 2003.
4) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Nobue Harada, et al. Dig Dis Sci 49: 787-794. 2004.

 

図2 ヘリコバクターピロリ感染、胃粘膜萎縮と24時間の胃内pHの推移

図3 加齢と胃酸分泌(胃内pH)の変化

(3) トリハダ胃炎の胃酸分泌能

 

トリハダ胃炎は若年者にみられるヘリコバクターピロリ関連胃炎であり、
若年者の未分化型胃がんとの関連が指摘されています。
わたしたちは、トリハダ胃炎においては、
同年代のヘリコバクターピロリ陰性者およびトリハダ胃炎を呈さない
ヘリコバクターピロリ陽性者と比較して胃酸分泌能が著しく低下し、
その原因として胃粘膜の萎縮性変化は軽度であるものの炎症細胞浸潤が高度であることを明らかにしました。
これらの高度の炎症細胞浸潤と胃酸分泌能の著しい低下が、
若年での発がんに関連していると推測されました。
一方でヘリコバクターピロリ除菌治療によって、
著しく低下した胃酸分泌能はすみやかに回復することも明らかにしました。

 

[関連文献]
1) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Keiko Iwamoto, et al. Helicobacter 10: 256-265, 2005.

2. 胃食道逆流症の病態

 

(1) 日本人若年者の胃食道逆流症

 

食生活・ライフスタイルの変化やヘリコバクターピロリ感染率の低下によって、
わが国においても胃食道逆流症が急増しています。
わたしたちは20才代の若年者を対象に、内視鏡検査および症状に関する問診表によりその頻度を明らかにしました。
対象の678例のうち内視鏡的に粘膜傷害を認めたのは52例(7.7%)であり、
有症状者を含む胃食道逆流症の診断基準に該当するものは200例(29.5%)と高率でした(図4)。
また、胃食道逆流症とそうでない者の間にヘリコバクターピロリ感染率に差がなく、
若年者の胃食道逆流症においては、ヘリコバクターピロリは促進的にも抑制的にも作用していないことを明らかにしました。

 

[関連文献]
1) Tomohiko Shimatani, Seiko Hirokawa, Kazuko Hamai, et al. Gastroenterology 134(Suppl 1) A594, 2008.

 

図4 日本人の20才代の胃食道逆流症の頻度

(2) 胃食道逆流症における食道内酸逆流と背景胃の胃酸分泌能

 

胃酸は胃食道逆流症の発症のもっとも重要な攻撃因子であることは明らかですが、
軽症例が大部分である日本人におけるその逆流パターンや胃酸分泌能については明らかでありません。
わたしたちは24時間胃・食道内pHモニタリングによって、
日本人の胃食道逆流症における食道内酸逆流と背景胃の胃酸分泌能を明らかにしました。
ロサンゼルス分類グレードAおよびBの軽症例においては、
食道内酸逆流は日中の時間帯が主であり、
一方グレードCおよびDの重症例においては日中だけでなく夜間にも頻回かつ長時間の酸逆流が観察されました(図5)。
また、軽症例ではヘリコバクターピロリ陽性で胃酸分泌能が有意に低下した例も含まれていました。
軽症例が多い日本人の胃食道逆流症においては、
欧米人のように胃酸分泌が亢進した例はほとんど存在せず、
逆にヘリコバクターピロリ陽性で胃酸分泌能が明らかに低下した例がかなり含まれており、
それが日本人に軽症例が多い原因であると考えられました。

 

[関連文献]
1) 島谷 智彦, 井上 正規. メディカルレビュー社, 69-81, 1999.
2) 島谷 智彦, 井上 正規, 堀川 陽子, 他. 日本高齢消化器医学会議雑誌 2: 23-29, 2000.
3) 島谷 智彦, 堀川 陽子, 原田 修江, 他. 胃分泌研究会誌 33: 31-34, 2001.
4) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Nobue Harada, et al. Dig Dis Sci 49: 787-794. 2004.

 

図5 胃食道逆流症の重症度と食道内酸逆流の程度

3. 胃酸分泌抑制薬の作用に関する臨床薬理学的研究

 

(1) 新規胃酸分泌抑制薬ラフチジンの胃酸分泌抑制作用とその機序

 

新規胃酸分泌抑制薬ラフチジンは、
夜間だけでなく日中の胃酸分泌すなわち食事刺激の胃酸分泌も強力に抑制することを明らかにしました。
またその機序について、ラフチジンがカプサイシン感受性神経を介してソマトスタチン分泌を刺激し、
そのソマトスタチンがガストリン分泌を抑制することをヒトにおいてin vivoで初めて明らかにしました。

 

[関連文献]
1) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Aliment Pharmacol Ther 18: 1149-1157, 2003.
2) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Dig Dis Sci 51: 114-120, 2006.
3) Kazuro Ikawa, Tomohiko Shimatani, Yuichiro Azuma, et al. J Clin Pharm Ther 31: 351-356, 2006.
4) Kazuro Ikawa, Tomohiko Shimatani, Seiichi Hayato, et al. Biol Pharm Bull 30: 1003-1006, 2007.

 

(2) プロトンポンプ阻害薬の効果的な投与方法

 

プロトンポンプ阻害薬は強力な胃酸分泌抑制作用を有する反面、
遺伝子多型に基づく代謝酵素チトクロームP450 2C19の活性の差によって、
無視できない胃酸分泌抑制作用の個人差があります。
また、ヘリコバクターピロリ陰性者では陽性者と比べ作用が弱いという特徴があります。
これらの胃酸分泌抑制作用の個人差を明らかにするとともに、
投与量の変更および従来の1日1回投与から1日2回に分割する投与方法が、
とくに夜間の胃酸分泌抑制不良を改善することを明らかにしました(図6)。
さらに、非びらん性胃食道逆流症に対して、
治療の開始前に24時間食道内pHモニタリングによってプロトンポンプ阻害薬の治療効果を予測する方法も明らかにしました。

 

[関連文献]
1) 島谷 智彦, 井上 正規, 堀川 陽子, 他. 胃分泌研究会誌 32: 13-16, 2000.
2) 島谷 智彦, 井上 正規. 臨床消化器内科17: 175-182, 2002.
3) 島谷 智彦, 黒岩 智子, 井上 正規, 他. 胃分泌研究会誌 34: 99-103, 2002.
4) 島谷 智彦, 黒岩 智子, 井上 正規. 胃分泌研究会誌 35: 67-70, 2003.
5) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Aliment Pharmacol Ther 18: 1149-1157, 2003.
6) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Aliment Pharmacol Ther 19: 113-122, 2004.
7) 島谷 智彦, 岩本 慶子, 兵庫 秀幸, 他. 胃分泌研究会誌 36: 55-58, 2004.
8) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Dig Dis Sci 50: 1202-1206, 2005.
9) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Clin Pharmacol Ther 79: 144-52, 2006.
10) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Dig Liver Dis 38: 554-559, 2006.
11) Tomohiko Shimatani, Mutsuko Moriwaki, Jing Xu, et al. Dig Liver Dis 38: 802-808, 2006.
12) 島谷 智彦, 田妻 進, 井上 正規. 先端医学社, 85-95, 2006.
13) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Tomoko Kuroiwa, et al. Dig Dis Sci 52: 390-395, 2007.
14) Tomohiko Shimatani, Tomoko Kuroiwa, Mutsuko Moriwaki, et al. Dig Dis Sci 52: 2826-2832, 2007.
15) Tomohiko Shimatani, Seiko Hirokawa, Yumiko Tawara, et al. Dig Dis Sci 54: 2385-2390, 2009.
16) 島谷 智彦, 井上 正規, 田妻 進. 消化器内科 52: 362-369, 2011.
17) Tomohiko Shimatani, Masaki Inoue, Yumiko Tawara, et al. J Gastroenterol Hepatol 26(Suppl 5): 206, 2011.
18) Takahisa Furuta, Tomohiko Shimatani, Mitsushige Sugimoto, et al. J Gastroenterol 46: 1273-1283, 2011.
19) Tomohiko Shimatani, Mitsushige Sugimoto, Masafumi Nishino, et al. J Gastroenterol Hepatol 27: 899-906, 2012.

 

図6 ラベプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)の投与量・投与方法と胃酸分泌抑制の違い

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