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第7章 胎児期の影響

毎年、多くの妊娠女性にX線検査などによる放射線被ばくの不安がもたらされていますが、通常は、妊娠中絶などについて心配する必要はありません。患者にとってX線検査は医学的に見て必要な検査であり、実際の検査では、胎児への放射線被ばくによるリスクは最小になるように配慮されています。いわゆる、放射線被ばくを伴うX線検査は正当化されて行われています。また、必要以上の放射線を用いることはなく、必要な画像診断情報を取得するために最適化されているのが現状です。


妊娠女性の医療被ばくは、他の医療被ばくと異なり、母親と胎児の両方の問題が存在します。胎児期の放射線の影響は成人と比較して感受性が高く、影響の発生には時期的な特性があり、発生した影響は非可逆的であるなどの特徴があります。X線検査による100ミリグレイ(mGy)以下の胎児線量では、胎児に対する放射線による確定的影響は発現しないため、不安にまかせて妊娠中絶は行う必要はありません。

 

しかしながら、妊婦の胎児が高い被ばく線量を受けたと思われる場合には、医師や診療放射線技師は胎児線量と潜在的な胎児のリスクを推定しなければなりません。患者はそれの十分な説明を受けた上で、個人の事情に基づいて妊娠中絶を行うか行わないかを最終的に決定しなければなりません。

 

7.1 胎児期の発生学分類

胎児期は、図7.1のように着床前期、器官形成期、胎児期の3時期に区分されます。このそれぞれの時期で放射線の感受性と発現する影響が異なります。これを影響の時期特異性といいます。着床前期は、受精した受精卵が子宮に着床するまでの時期であり、受精後約9日間です。この時期には、胚死亡、流産、未着床などの影響を受けます。器官形成期は、細胞が分化して個々の臓器の元になる細胞ができあがる時期であり、子宮に着床した後の受精後2~8週の時期です。この時期には、奇形、小頭症、新生児死亡などの影響を受けます。胎児期は、それ以降の時期であり、臓器、組織が成長を繰り返す時期です。この時期には、新生児の死亡、精神異常、出産後の発がんなどの影響を受けます。
胎児期の放射線被ばくが原因して発した奇形や精神発達などの遅れなどは、一旦発生すれば、人体の自然治癒力で回復することはありません。

着床前期、器官形成期、胎児期の3時期に区分(広島国際大学)

 

 

胎児死亡は、着床前死亡、器官形成期の死亡である胎芽死亡、胎児期の死亡である胎児死亡の3つに分けられます。着床前死亡は流産の形で現れ、胎芽死亡は着床後の早い時期に発生した場合には、放射線被曝が原因かどうかは気づかれません。


奇形は、外表奇形、骨格奇形、内蔵奇形などがありますが、放射線被ばくによりヒトで観察されている奇形には小頭症があります。
精神発達遅滞は、広島・長崎での原爆被ばくの結果から、胎児期の放射線被曝との関係が注目されています。胎児期の放射線感受性は、受胎後8週から15週の時期が最も高く、次いで16週から25週の時期に感受性が高いとされています。大脳皮質が形成される時期は8~20週頃であり、この時期にしきい値以上の放射線被ばくを生じれば、精神発達遅滞をもたらす可能性があります。

7.2 胎児の放射線被ばくによるリスク

放射線被ばくよるリスクは妊婦の妊娠全周期を通して存在し、そのリスクは妊娠の時期と放射線の被ばく線量に関係します。放射線被ばくによるリスクは器官形成期など胎児早期において最も感受性が高く、第2トリメスターでわずかに低くなり、第3トリメスターで、感受性は最も低くなります。トリメスターとは3ケ月のことです。放射線検査による胎児の放射線被ばくは、出産後に小児がんになる可能性のリスクがあります。表7.1に胎児への放射線影響としきい線量を示します。

表7.1 胎児への放射線影響としきい線量

時期影響しきい値(Gy)
着床前期(~受精後8日) 胚死亡 0.1
器官形成期(3週(着床)~8日) 奇形 0.1
妊娠中期(8週~15週) 精神遅滞 0.1~0.2
      (16週~25週) 発育遅滞 0.1~0.2
妊娠後期(25週~38週) 安定期
妊娠前期 がん・遺伝疾患・確率的影響

7.3 放射線誘発奇形

妊娠中の奇形は被ばく線量が100~200ミリグレイ(mGy)、もしくはそれ以上の放射線量のしきい値があり、一般的に中枢神経障害が生じる可能性があります。このほかにも奇形、成長遅滞、胎児死亡のリスクも発生します。胎児の被ばく線量100ミリグレイ(mGy)という値は、骨盤のCT検査3回分や一般的なX線検査20回分よりも多い線量です。X線検査などによってもたらされる100ミリグレイ(mGy)レベルの線量は、通常の腹部単純X線検査などではありえず、骨盤のIVR(血管低浸襲治療)やがんの放射線治療の治療でなければ達することはありません。

7.4 中枢神経系への影響

受精後8~25週において、特に中枢神経系は放射線に高い感受性を示します。胎児線量が100ミリグレイ(mGy)を超えた場合、幾分IQ(知能指数)が低下する可能性があります。胎児線量が1000ミリグレイ(mGy)(1Gy)以上になると、重危篤な精神遅延や小頭症を引き起こす可能性があり、特に8~15週においてそのリスクが増加し、16~25週である程度減少します。

7.5 白血病と癌

成人・子供に関わらず、放射線被ばくによって白血病や種々の癌に罹患するリスクが増加することが示されています。妊娠全周期を通して、胎芽/胎児は発がんの影響に関して、子供と同様のリスクが生じると考えられています。胎児線量10ミリグレイ(mGy)で、相対的リスクが1.4(自然発生率より40%増加)となります。子宮内で10ミリグレイ(mGy)の放射線被ばくをした場合、小児1700人のうち0~15歳までに癌で死亡する絶対的リスクは、1人です。

7.6 受胎前照射

妊娠前、両親のいずれかの生殖腺が放射線被ばくにあった場合でも、子供に癌や奇形のリスクが増加するという結果は得られていません。この結果は、子供時代に放射線治療をうけた患者の研究と同様に、原爆生存者における研究から得られた確かなものです

 

7.7 インフォームド・コンセントと理解

妊娠している患者や放射線診療従事者は、子宮への放射線被ばくによって生じる潜在的な影響の大きさと種類を知らなければなりません。胎児への線量が1ミリグレイ(mGy)未満は、極低線量として放射線被曝のリスクを無視して問題ありません。しかしながら、もし胎児線量が1ミリグレイ(mGy)を超えた場合には、より詳しい説明が求められます。

7.8 妊娠中の患者への照射

妊娠の状態によってはX線検査を行うことは適切なことではなく、もし実施されるようなことになれば、出生前の子供の健康に害を与えるリスクが増大する可能性があります。最適化された診断行為による出生前の撮影ならば、出生前死(流産)や奇形、精神発達遅延などのリスク増加は見られません。しかしながら、IVRや放射線治療などでは、被ばく線量が高くなり、胎児へ重大な健康被害がでるおそれがあります。

7.9 放射線検査による医療行為

患者に対するすべての医療行為は、検査が行われる前に、リスクよりも利益が優先するよう正当化されていなければなりません。そして、放射線検査を行う場合には、胎児線量は必要最低限の診断情報が得られる程度に抑制する必要があります。

7.10 潜在的妊娠への評価

放射線検査を受ける必要のある妊娠可能年齢に達した女性について、放射線検査をする前に妊娠しているか、あるいはその可能性があるかを問診しなければなりません。定期的に月経のある女性で、月経が遅れていた場合には、妊娠していないことが判明するまで妊娠しているとみなされます。また、妊娠の可能性を注意する掲示物は、患者の待合室などに貼って注意を促す必要があります。

7.11 X線検査による胎児の概算線量

通常、胸部や腹部のX線検査などによる放射線被ばくは非常に少なく、胎児への確定的影響は問題にする必要はありません。表7.2にX線検査で放射線被ばくする胎児の概算線量、表7.3に透視やCT検査による胎児の概算線量を示します。

表7.2 一般X線検査で放射線被ばくする胎児の概算線量(英国,1998)

検査平均線量(mGy)最大線量(mGy)
腹部 1.4 4.2
胸部 0.01 0.01
静脈性尿路造影;腰椎 1.7 10
骨盤 1.1 4
頭蓋骨;胸椎 0.01  0.01
 

表7.3 透視やCT検査による胎児の概算線量(英国,1998)

検 査平均線量(mGy)最大線量(mGy)
バリウム造影(上腹部) 1.1 5.8
バリウム注腸造影 6.8 24
頭部CT 0.005 0.005
胸部CT 0.06 1.0
腹部CT 8.0 49
骨盤CT 25 80

 

7.12 高い放射線被ばく線量をもたらす放射線診療

放射線治療やIVRでは、胎児線量が10~100ミリグレイ(mGy)オーダーとなります。もし、妊娠している患者にこのような高い放射線被ばく線量をもたらす放射線診療が行われた場合には、胎児線量や胎児の潜在的リスクについて、医師や診療放射線技師はリスクの評価を行う必要があります。

7.13 核医学検査と妊娠患者

核医学検査では、主として胎児に大きな線量を与えない短半減期の放射性核種(99mTcなど)が使われており、胎児線量は、母体の水分補給と頻繁な排尿によって減らすことができます。ただし、胎盤を通過して胎児リスクを引き起こす放射性核種(131Iなど)もあるので注意しなければなりません。

 

妊婦に131Iが投与されれば、妊娠10週後から胎児の甲状腺に放射性ヨウ素が集まり始め、胎児の甲状腺が高線量を受けるようなことになれば、永久的に甲状腺機能低下症となる可能性があります。放射性ヨウ素投与後12時間以内に、妊娠が判明した場合には、すばやく非放射性ヨウ化カリウムを(60~130mg)母体に投与することで、胎児の甲状腺線量を減少させることができます。この処置は何回か繰り返して行う必要があります。
また、多くの放射性医薬品が母乳の中に排出されるので、乳児へのリスクを回避するために次のような方法で授乳を控える必要があります。

 

①131I 治療後は完全に授乳を控えること。

②131I, 123I, 67Ga, 22Na,210Tl の投与後は、3週間授乳を控えること。

③99mTc 標識赤血球, DTPA, 及び リン酸塩投与後は授乳を4時間控えること。また、これ以外の99mTc化合物、および131I 標識ヒプル塩酸塩は投与後12時間授乳を控えること。

7.14 妊娠している放射線業務従事者における放射線被ばくし

妊娠している医師、診療放射線技師、看護師などの放射線診療従事者は、妊娠期間中の胎児線量が確実に1mGy未満であれば、放射線診療業務を行っても支障はありません。なぜなら、1mGyはすべての公衆人が一年間自然バックグラウンドから受ける線量にほぼ等しいからであす。

7.15 妊娠中絶

妊娠後期における胎児への高い放射線被ばく線量(100-1000ミリグレイ(mGy))では、すべての器官形成が終わった後ですから、奇形や出産異常はほとんど生じることはありません。胎児線量が100mGyであった場合、放射線誘発癌のリスクがわずかに発生し、99%以上は、小児癌や白血病にならない可能性の方が高いといえます。胎児線量が100ミリグレイ(mGy)未満で、妊娠中絶を考慮することは正当化されていません。しかしながら、胎児線量が500ミリグレイ(mGy)を超えた場合,胎児へ重大な損傷が生じ、その大きさや種類は線量や妊娠期間に関係します。胎児線量が100~500ミリグレイ(mGy)では、妊娠中絶を行うかどうかは医師と相談して個人的な判断で決定しなければなりません。

 

放射線被ばくの話 ページ一覧

 第1章 放射線、放射能(放射性物質)
 第2章 放射線の利用
 第3章 放射線の防護方法
 第4章 自然放射線被ばくと人工放射線被ばく
 第5章 医療放射線被ばく(外部被ばくおよび内部被ばく)
 第6章 放射線障害(確定的影響および確率的影響)
 第7章 胎児期の影響
 第8章 放射線の測定
 第9章 Q & A

 

最終更新日:2011年11月16日