伝統ある日本薬学会(141年会)で中島正光教授が特別講演(2021年3月27日(土))を行いました。要旨は以下のようになっています。世界で初めて発見した漢方による薬剤性肺炎と世界で初めて開発した間質性肺炎に血清マーカKL-6の実臨床的な発見、開発の話し、さらに、臨床薬剤師の輝かしい未来にむけた内容を話されました。

Nakajima Masamitsu , Professor, MD, PhD (Hiroshima International University).

1) Clinical features of the discoverer of drug-induced pneumonia caused by herbal medicine, which we discovered for the first case in the world. 2)Development and the usefulness of KL-6, the first serum marker in the world for pulmonary fibrosis that we have developed.

写真は特別講演演者の中島正光教授と大会会長の小澤 光一郎(広島大学大学院医系科学研究科)先生と司会の広島大学教授松浪勝義(広島大院医系科学)先生です。

[SL02]【要旨】https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm141/session/2B02-02/advanced

薬剤性肺炎は治療のために投与されたはずの漢方薬が肺炎を発症させ、重篤な呼吸不全を起こす可能性がある副作用で、充分な注意が必要である。しかし、薬剤性肺炎を確定診断することは難しく、診断に悩むことも多い。多数の西洋薬による薬剤性肺炎の記載がなされているが、何千年もの長い間使われてきた歴史を持ち、 副作用が少ない漢方薬においても薬剤性肺炎が発症することを1989年に、我々がはじめて発見し、報告している。その後、漢方薬による薬剤性肺炎の報告がなされるようになったが、はじめて報告した当時は副作用の少ない漢方薬でも薬剤性肺炎が発症することに驚きを持たれたことを覚えている。しかし、その後も漢方薬を漫然と継続投与することが続き、薬剤性肺炎が大きな問題となった。何故、長い間にわたり漢方による薬剤性肺炎が診断されず、我々が診断できたのか、そして薬剤アレルギーの診断によく使われる検査で、漢方による薬剤性肺炎の診断にもよく使われるDLST(薬剤によるリンパ球刺激試験、drug-induced lymphocyte stimulation test)は漢方薬では有用ではなく、感染症との鑑別が重要であることなど診断方法について述べたい。そして、薬剤師は漢方領域において患者に適した漢方を選択、それにより治療し、経過をみることができる。患者の病態を把握する上で患者を経時的に見ることは重要であり、そして疾患を考える上で病理学、検査の知識の必要性を感じることについても述べる。薬剤性肺炎の確定診断は困難であるが、我が国の臨床現場で日常的に検査として使用されている間質性肺炎の血清マーカーであるKL-6が薬剤性肺炎で高値になることを我々は報告している。KL-6は肺胞Ⅱ型上皮から産生されるMUC1ムチンで、我々が開発した世界で初めての間質性肺炎に対する血清マーカーである。薬剤性肺炎と鑑別が必要となる細菌性、マイコプラズマ肺炎、クラミジアニューモニエ肺炎、クラミジアシッタシー肺炎では高値となり難いなどのデータを説明し、肺線維症でKL-6が高値になる病態について病理組織を交えて説明したい。そして、全ての薬剤性肺炎の血清中でKL-6が高値となるわけではなく、同じ漢方薬による薬剤性肺炎でも免疫機序・程度の違いなどがあり、異なる病態が含まれていることを示したい。日本では、漢方は歴史的にみて特異な発展を遂げてきたと言える。そして、薬剤師が患者の病態を把握して、 患者を漢方薬により治療することができる。薬剤性肺炎の発見の切っ掛けになる症状の違いは、患者の経過を診て疾患を学ぶことから得られたもので、その重要性を感じる。患者を継続的に診ることは重要である。 今回は漢方薬の副作用を中心に述べたが、昨今薬剤師業務は対物業務から対人業務へと言われている。薬能を知って患者の病態を考えて漢方薬の投与を考える薬のプロとして、薬剤師が患者を継続的に診ることの重要性も話したい。