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シリーズコラム『(医療)福祉は、例えるとブラックホールのようなもの?』

④ 精神保健福祉士の仕事

 

 これまでの3回では、病院で働く相談援助職のことについて書きました。今回は、精神保健福祉士の仕事の一端を垣間見たいと思います。

 

 精神保健福祉士というのは、福祉職として精神科病院や精神科クリニックなどの医療機関で働く場合に必要とされる国家資格で、精神障害者の方が社会で生活をし続けることができるように、様々な支援を行うことが主たる役割です。  

 

 精神障害者の方は、さまざまな症状に悩まされますが、それらの症状が原因で日常生活や社会生活を送るのが難しくなってこられます。人は生きている限りストレスに晒され続けていますので、別段、原因らしい原因が無いにも関わらず、「何となく体が重い」とか「気が乗らない」、さらには「何もする気が起こらない」という日が私たちにもあるのではないでしょうか?「なるほど、誰にでもあることなんだ」と思っていただけると助かります。ただ、確かに誰にでもあることですが、良い時と悪い時の“波”が大きく、また長く続くという病気でもありますので、仕事に就いていたとしてもしばらく仕事ができなくなるとか、学生や中高生の場合には、学校に行けなくなるという時期が出てくることがあります。

 もちろん、精神科を受診して治療を受けると、それらの症状は確実に改善します。ただ、厄介なことに改善=“治った”ということを意味する訳ではなく、“寛解”という言葉で表わされるように、薬を飲み続けながらの生活を引き続き送る必要があります。

 しかしながら、健常者と同様に就職して働く、あるいは職場復帰して働く能力が損なわれるわけではありませんので、患者さんたちが少しずつでも社会での生活に身を置きながら環境に慣れていくことが大切です。

 ただ、精神疾患の症状は非常に理解されにくいうえに、理解してもらおうとしてご本人が病気のことや症状のことを言えば言うほど偏見・差別の的になりやすいという、患者さんご本人にとっては非常にジレンマを生じやすい病気ですので、結果的には、一人でジッと耐えざるを得なくなる病気でもあります。

 

 例えば、精神障害の方が就労するというのは、前述したような“波”と戦いながら波を安定させるために薬を飲むことになります。薬は必ず副作用がありますので、それが仕事に支障を生じるような影響を与えることがあります。また、慣れない仕事に就いた場合には、慣れるまでの間、先輩や上司から厳しく指導されたりすることがありますが、「分からないことがあっても聞きづらい」ために同じ誤りの繰り返しをしてしまい、挙句の果てには仕事をすることや仕事場に行くことが辛くなり、休職することになってしまうことがあります。

 

 このような事情や一時期調子を崩されて休職した方が職場復帰できるようにするには、特に職場の上司に患者さんのことを理解してもらえるように伝え、職場復帰するにあたっては環境調整をしていく必要があります。

 また、(再)就職にあたっては、精神保健福祉士が企業を訪問したり、ハローワークに同行したりして、患者さんが自分に合った仕事を見つけ出す手伝いをしたり、就労移行支援事業所などの他の支援施設に紹介したりして支援を行います。もちろん、就職してからも必要に応じて相談に乗り、患者さんと企業との間の調整を行うことで職場に定着できるように支援を行います。

 

 つまり、仕事を休むのではなく、少しずつでも働きながら、就労に伴って生じるハードルを患者さん自身が地道に越えていくことができるように、いろいろな調整支援を続けていくのが精神保健福祉士の役割の一つです。そのためには、精神保健福祉士・医師・家族・企業との連携・協働が不可欠で、一つでも欠けると成り立ちません。

 このように、医療ソーシャルワーカーや精神保健福祉士は、医師・看護師と共に“医療チーム”の一員として患者さんやご家族が当たり前の日常生活や社会生活に戻ることができるよう、また、そのプロセスにおいて患者さんやご家族が抱えている様々な心理・社会的な問題を患者さんやご家族の力で乗り越えていくことができるように支援を続けていくこと、これらを大切な役割として日々の仕事に取り組んでいるということを、少しはご理解いただけたでしょうか。

 

 次回がシリーズの最終回となります。どのようなお話で締めくくることになるか、ご期待いただければと思います。


 

 

医療福祉学部長 吉川 眞

最終更新日:2014年11月11日