チーム医療に強い人材を育成する医療系総合大学

学部

第1回2012.8.6更新

住民主体の地域づくりにかかる研究
―関前(せきぜん)地区の取り組み―

「つなぐ」「集う」「語る」「おこす」

愛媛県今治市関前地区で、行政主導ではなく住民主体による地域づくりの実践に向けて、話し合いを進めています。関前は3つの島から成り、人口600人に満たない地区。一番大きな岡村島では島民の約半数が65歳以上の方で、高齢化、人口減少が加速しています。きっかけは、今治市社会福祉協議会の大学院生が研究の中で実践されていた「自分史づくり事業」に関心を持ったことです。その特長は住民の意見を反映させた取り組みを実現するために、多様な立場の人々が参加できる話し合いの場を設けていることです。協働のシンボルとして、昨年12月、岡村島に活動拠点「関の家」を開設しました。住民と専門機関や研究者がサポーティブな関係を築くための交流の場であり、活動を企画・実施する際の調整や支援機能を果たすことが期待されます。理事会と運営委員会といった運営組織も作り、本学教員や学生も理事会メンバーとして携わります。活動のキーワードは4つ。関前地区の内と外の人々、グループなどのつながりづくりを行う「つなぐ」、自由に集まり、触れ合う「集う」、地区の魅力と課題をテーマに語り合う「語る」、そして暮らしの向上に関する活動を起こし、知恵を出し合って地区を興す「おこす(起こす、興す)」です。

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渡辺 晴子 准教授

医療福祉学部 医療福祉学科

岐阜大在学中にスウェーデン・ルンド大社会福祉学部に留学。教職志望だったが、この留学をきっかけに福祉分野における地域づくり、人づくりに関心を持つ。06年大阪府立大大学院社会福祉学研究科修了。07年広島国際大医療福祉学部着任。岐阜県出身

「関の家」でのグループワーク

「誇りの空洞化」をふせぐ

ただひとくちに地域づくりといっても、いろいろな方法がありますが、私達は中でも、過疎化という現実から目をそむけずに、住民自身が今後どう生きていきたいかを模索できる環境を築くことで、活性化に繋げようと考えています。農山漁村問題の研究でも指摘されていることですが、農山漁村が直面している空洞化には、人口減少や集落が機能しなくなる表面的な空洞化だけでなく、もっと深刻な空洞化「誇りの空洞化」<小田切徳美(2009)『農山村再生』>、つまり地域に住み続ける意味や誇りを失いつつあることが問題視されています。こうした流れはいずれコミュニティの喪失に繋がります。
そうした意味合いでは、関前の人々には故郷に対する愛着やプライドがあります。現状と向き合いながら、住民たちでより良い環境づくりを試みる意欲が残っています。ですから子どもから高齢者まで幅広い年代の人に参加してもらえる場を設け、そこで出た意見を受け入れた取り組みにつなげるための環境づくりが必要です。会議だけでなく、婦人会と料理教室を開くのもいいですし、高齢者なら同世代同士の方が話しやすいかもしれません。インターネットの時代ですから、島外へ移った人たちとも連絡を取ることができます。多様な人が参加できる仕組みの創造が、生きがいづくりにつながり、誇りの空洞化を防ぐのです。

開所式であいさつする岡崎学部長

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漁村部のの風景

当事者の思いを中心に課題解決を図る能力を

コミュニティの活性化のツール


 
学生のかかわりは大学のSSPプログラム(※)として進める計画です。学生と関前地区の住民が、同地区の特産品を使った料理作りを通して、関前の良さを再発見することを活動目的としています。何よりも住民の方の主体性を大切にしつつ、学生が卒業しても、続いていくような活動をめざしたいですね。祭りなどの行事についても、住民の方々が本学でプレゼンテーションする機会を設け、興味を持ってくれた学生の参加を促せるようにしたいですね。また、震災の影響もあり、社会福祉協議会の事業として、防災関係のワークショップの実施が決定しており、そこに学生たちが入り、ファシリテーターや調査報告などの形で協力できたらいいですね。関前地区の取り組みを通じて、学生たちには課題解決を図る際に、制度やサービスありきで進めるのではなく、当事者を中心に物事を見つめられる思考力や行動力を養ってほしいと願っています。相手がどう生きたいのかという思いをくみ取りつつ、問題が生じる原因を探り、生活環境の中で解決を図っていくことが大切なのです。

※SSPプログラム
Student-Society-Partnershipの略
地域社会の人々とパートナーシップを結び社会貢献などの社会的価値のある活動にトライする学生諸君を大学が応援する制度です。
 

関前の風景

本記事は、「学園広報誌Flow」N.49,2012年5月に掲載された記事を再編集したものです。

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