食に、イノベーション。新技術、凍結含浸法。

食材本来の栄養素、
色彩、風味が、そのままに。

教授 坂本 宏司

食に、イノベーション。新技術、凍結含浸法。

病気や高齢で、噛む力・飲み込む力が衰えると、味や香りが混ざってしまう流動食や細かく刻んだ刻み食になってしまいます。これでは、食材の風味も失われ、見た目もよくなく、食べる楽しみも意欲も失われます。私が研究を続ける「凍結含浸法」は、野菜や肉、魚などの食材の形や味、もちろん栄養素はそのままで、食べやすいやわらかさにすることができる技術です。食材の硬さに影響を与えているのは、細胞壁や細胞と細胞の結合物質(タンパク質)など。凍結含浸法では、凍結・解凍・減圧を行うことで、細胞壁などを分解するための、酵素の浸透を高めることができます。やわらかさの段階を調整することも可能です。また、酵素と一緒に調味料や栄養成分も均一に染み込ませることができるので、加熱時間も少なく熱に弱いビタミンなどの溶出も少なくなるという利点もあります。

凍結含浸法は、もともと栄養分が詰った細胞を破壊することなく分離して、高機能食品を開発しようという、別の研究のプロセスで考えついたものです。つまり、偶然と発想の転換から新技術が生まれました。私たち研究者は、一つの小さな点を追い求めながら、別の点とも結びつき大きな広がりになる、その一瞬を見逃してはいけません。

思い込みも柔軟な発想も研究には必要です。長年取り組んできた凍結含浸法は、すでに食品メーカーや一部の高齢者福祉施設で活用されていますが、これは、まだ第一段階。介護食へのチャレンジの一歩にすぎません。これから在宅介護の時代が訪れます。今、自宅で手軽に活用できる凍結含浸法の開発に力を注いでいるところです。食べ慣れた家庭の味を食べられるということは、旬を感じる、地域を感じることでもあり、生活の質(QOL)維持にもつながります。

食べるために生きる、と言ってもらえるぐらい、高齢者の食べる意欲が、生きる意欲になってほしいと願っています。凍結含浸法はもとより、今後も研究を通してチャレンジを続け、介護食で地域社会を変えていきたいと思います。

教授 坂本 宏司
教授 坂本 宏司

坂本 宏司(さかもと こうじ)

広島国際大学 医療栄養学部医療栄養学科 教授

学位・資格:博士(農学)

専門分野:食品加工学、食品化学、酵素応用

キーワード:食品化学、食品製造・加工、食品分析

研究テーマ:
1)凍結含浸法を利用した形状保持型介護食に関する研究
2)凍結含浸法を利用した機能性食品に関する研究
3)食品の香気成分の解析とその評価

所属学会:日本食品科学工学会、摂食・嚥下リハビリテーション学会、日本調理食品研究会

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