人工知能と「しあわせ」

2016年05月17日

5月15日(日)に放映されたNHKスペシャルは、「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」でした。今話題の人工知能に関する話題だったので、「見たよ」という人も多いのではないでしょうか。

番組中で、「囲碁」をする人工知能の開発では「直感」、日本の会社で進められているロボットに搭載されている人工知能の開発では「感情」がキーワードとしてあげられていました。また、SNS上で対話する人工知能である「シャオアイス」に惚れて、結婚したいという中国男性が印象的でした。ちなみに「シャオアイス」は、日本でも最近とりあげられることの多い「女子高生AIりんな」のお姉さんにあたるようです。番組内容の多くは聞いたことがあることでしたが、あらためて期待していることを少し書きます。あくまでも素人としてですが。

大学教員という立場上、私が特に興味があるのが、将来の人工知能が、どの程度教員の替わりになるか、ということです。講義が主体の授業では、講義の部分だけであれば、人工知能で十分になるでしょう。現在でも、講義を録画教材に変え、教室では議論を中心に授業を展開しておられる教員が多くおられます。人工知能が学生と一対一で講義をすれば、受講者の様子を観察しながら、繰り返したり、ゆっくりと話したりということができるかも知れません。

先日ジョージア工科大学で、オンライン授業における質問に対して、人工知能が答えるという試みが行われ、ほとんどの学生は人が答えてくれていると思っていた、というニュースが流れました。ですから、講義中の質問に対しても、多くは人工知能が対応可能になると考えられます。そうなれば、教員が行う授業は、学生同士が講義で得られた知識を基に議論を進めていく演習や実習が主体になるでしょう。教員の時間的負担は大きく軽減されるでしょうが、学生と話をする機会は増えることになります。

話をする機会が増えるということは、「人とつながる」機会が増えることです。これは、「しあわせ」に重要な因子ですので、学生と教員双方の「しあわせ」につながっていくのではと期待します。また、大学に限らないでしょうが、教員は多忙です。教育に研究、それに社会貢献も大学の役割とされ、夜間や休日もなんらかの活動をしていることが多いのが教員です。教員の活動が増えれば、事務職員の活動も増えます。学外や教員からの問い合わせに人工知能が対応すれば、事務職員の雑務もかなり軽減されるでしょう。時間に支配されるのは、大きなストレスになりますが、時間的余裕ができて時間をコントロールしているという感覚は、「しあわせ」につながるものではないでしょうか。精神的な課題を抱え、人に話すのをためらっているような学生も、人工知能が相手なら話をしてくれるかも知れません。そこから相談員への相談につながっていけば、その学生にとってこれほど「しあわせ」なことはないでしょう。現在よりも飛躍的に学生一人ひとりに応じた教育が可能になるのでは、と夢が膨らみます。

ところで、議論を交わすときには、感情的に対立したり、議論すべきテーマとは異なったことで盛り上がったりと、議論が進まないということが出てきます。理屈ではこうすべきだと感じたとしても、人は論理や理屈だけでは動きません。質問や問い合わせに対する答えについても同じです。例え表面上は結論や答えに納得していても、直感的に違うと思っていたりすると薄っぺらな理解にとどまるでしょうし、その結論に基づいた行動にはつながっていかないでしょう。行動につなげていくためには、感情の部分で納得することが大切です。その意味でも、人工知能に「直感」や「感情」を持たせるという、番組で取り上げられていた取り組みは重要になると思います。

ところで、中国の「シャオアイス」と結婚したい、という若者の話を聞いていて、SF小説で出てくる未来の結婚とはどのようなものか、と思い出していました。結婚しないという選択をする人も増えてきた現代において、「結婚」という制度がどうなっていくのか、自分のことをなんでも知っていて、衰えを知らない、また世界中のモノとつながった人工知能と「結婚」して一緒に暮らす、ということが現実になった時、どのような世界になるのか。人だけではなく人工知能とのつながりも「しあわせに」つながるのか。本当にSFの世界ですね。もっとも、携帯電話やPCも、私たちが子どもの頃の状況からみれば、十分SFの世界の話ですけど。人工知能の発達は恐れられている部分もありますが、正しく理解し、技術者を応援することが大切だと思います。機会をみつけては、人工知能について、素人なりに勉強をしたいと思っております。