教育×人 -リレー・エッセイ-

薬剤師は、利用する「ひと」をも深く理解できる専門家に。

教授 堀 隆光

博士(薬学)、薬剤師

専門分野:生化学、分子生物学

教員は、責任ある指導者であり、サポーターでもある。

学生にとって、大学入学から卒業までの間は、自立を目指し、入学前とは大きく考え方を変えなければならない期間です。入学までは、周囲にとても温かく見守られ、擁護を受けることが中心の人生。しかし、卒業後は、患者さんなど人々のために貢献する役割です。このギャップはとても大きく、簡単には転換が難しいのが実情です。大学教員は、成長の転換期にある学生個々を適切にサポートする必要があると考えています。教員が、このサポートを円滑に行うには、学生との良好な人間関係を築くことが必要です。かと言って、もちろん友達関係であってはならないと思います。学生が近づきやすい指導者でなければなりません。その環境を教員は、自身の責任で整えるべきと思っています。そのうえで、学生の視点に立って、学生が求めているものが何かを掴み、求められる内容をそれぞれの学生にあった方法で指導することが重要だと思っています。

その時点、その時点での学生の状況を察する。

授業では、受講している学生の表情や動きを常に気にしながら話すようにしています。教員の話しに学生さんがうなずいている場合は、内容に興味を持ってくれたものと思い、少し深く話します。教員が話しても、表情がまったく変わらない、ペンを持つ手がまったく動かないなどの場合は、理解が追いついていないと判断し、もう一度同じことを少し表現を変えて話します。学生さんは自分の理解状況を言葉ではなかなか表現してくれないので、教員がその時点、その時点での学生の状況を察することが必須だと考えています。

多くの学生さんはまじめに学修に取り組まねばと思っているようですが、特に低年次の学生の場合、学修プロセスを組み立てられない人が多くいます。そのような状況での学修をサポートするため、学習すべき内容をプリントにまとめ、授業中には重要点を書きとめる課題を課し、授業後は必要な復習内容を課題として提出してもらうことを毎回繰り返し、日頃の学修の道筋を身につけてもらうことを重視しています。

薬剤師は、単なる「もの(化学物質)」の専門家ではない。

現代の医療は薬物治療が中心ですが、薬剤師は単なる「もの(化学物質)」の専門家ではありません。その化学物質が体内に入ったとき、どのようなメカニズムで、どのような作用(期待する作用や副作用)があらわれるかを明確に理解することが必要であり、また、治療効果や予防効果を高めるために、患者さんや他の医療専門職にそれらの多くの情報を的確に提供し、かつ、相手の状況を正確に捉えることが必要です。そのためにはしっかりとしたコミュニケーション能力をもつことが欠かせません。薬剤師としての専門的な学修は大学に入ってからしっかり取り組んでもらうことになりますが、薬剤師を目指す高校生の皆さんには、是非、今からでもコミュニケーション能力を少しずつ上げることを意識してほしいと思います。周囲のひとの意見をよくきき、自分が伝えるべき内容をしっかり伝えられることは、薬剤師としてとても重要な能力です。

薬剤師は、「もの(医薬品)」の専門家であるとともに、その医薬品を処方される「ひと(患者)」に対応する専門家でもあります。人々のために役に立ちたいという意識をもって、「もの」と「ひと」の理解を深めることができる薬剤師を目指してもらえると嬉しく思います。

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