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診療放射線学科2025.3.24

診療放射線学科 松尾准教授らの国際共著論文がNucleic Acids Research誌に掲載されました。

広島国際大学 保健医療学部 診療放射線学科の松尾龍人准教授は,X線や中性子線などを使って,生物を構成する分子の形や動きを調べる研究をしています.大腸菌などのバクテリアは,その小さな体内(大きさ約1 μm)に1.5 mmもの長さがあるDNAを格納しています.しかし,この格納に重要な役割をするHfq-CTRというタンパク質分子が,どのようにDNAをコンパクトにまとめているのか,その形は不明でした.今回,松尾准教授は,フランス,スペイン,デンマーク,イギリス,シンガポールの大学および研究機関と共同で,クライオ電子顕微鏡や中性子小角散乱など複数の手法を統合的に用いて,Hfq-CTRとDNAが結合した構造を解明することに成功しました.バクテリアのDNAがどのように格納されているかについて理解が深まったことで,バクテリアが引き起こす様々な感染症のメカニズムやその治療薬(抗生剤)開発の基盤になると期待されます.

 

本研究成果は,国際学術誌の”Nucleic Acids Research” (2023年度インパクトファクター16.7)に掲載されました.

 

 

【論文情報】

・論文タイトル

Amyloid-like DNA bridging: a new mode of DNA shaping

・雑誌名, 巻, ページ番号 (年)

Nucleic Acids Research, 53, gkaf169 (2025)

・著者

Frank Wien#, Marcos Gragera#, Tatsuhito Matsuo#, Gautier Moroy, María Teresa Bueno-Carrasco, Rocío Arranz, Antoine Cossa, Anne Martel, Heloisa N. Bordallo, Svemir Rudic, Marisela Velez, Johan R.C. van der Maarel, Judith Peters, Véronique Arluison

#共同筆頭著者, †責任著者

 

・論文掲載ページ

https://academic.oup.com/nar/article/53/5/gkaf169/8069166

・論文の概要

私たちヒトのDNAは, 細胞の核内でヒストンというタンパク質によってコンパクトに収納されています.一方,大腸菌などのバクテリア(体積は1 μm3程度)は細胞の核を持たず, 色々な種類のタンパク質が, 全長1.5 mmもあるDNAをコンパクトにまとめて核様体を形成しています(図1).その中でも重要な働きをしていると考えられているタンパク質がHfqです.一般的にタンパク質は,20種類のアミノ酸とよばれる物質が数珠のようにつながって特定の形を取ります.Hfqは102個のアミノ酸からできており(図2),前半65個のアミノ酸がどのようにDNAに結合するかはわかっていましたが,後半38個のアミノ酸の部分(以下, Hfq-CTR)については,DNAにどのように結合しているのか,その構造は不明でした.そこで今回,研究チームは, Hfq-CTRとDNAが形成する複合体の構造解析を試みました.

まず,原子間力顕微鏡とクライオ電子顕微鏡を用いて構造解析を行ったところ,多数のHfq-CTRとDNAが結合してできた複合体は,太い繊維状の構造をしていることがわかりました(図3).DNA自身も繊維状の構造をしており,またHfq-CTRも他の多数のHfq-CTRと結合しアミロイド線維という繊維状の構造を取ります.そのため,顕微鏡で観察できた太い繊維の断面を見ても,どの部分がHfq-CTRとDNAなのかを決めることはできません.そこで次のステップとして,複合体の中の分子を区別して観察できる, 松尾准教授が専門とする中性子小角散乱を用いました.実験で得られた散乱データを再現できるような繊維断面の構造モデルをシミュレーションで探索したところ,DNAは六角形のリング上に,Hfq-CTRはこれらのDNA同士をつなぎとめるように,繊維の中心部から同心円上に広がった構造をしていることがわかりました(図4).以上の結果を統合して,研究チームはHfq-CTRとDNAの複合体の構造モデルを提唱しました(図5).

アミロイド線維(Hfq-CTR)がDNA同士を結びつける橋渡しをする構造が確認されたのは本研究が世界初であり,バクテリアのDNAがどのように格納されているかについて理解が深まったことで,バクテリアが引き起こす様々な感染症のメカニズムやその治療薬(抗生剤)開発の基盤になると期待されます.

 

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