レポート 今、現場を知る。

最先端の研究の楽しさを教育に

教授 池田 潔

教授 池田 潔

  • ホーム
  • 今、現場を知る Vol.03 教授 池田 潔

ウイルスに紫外線を当てて
素早く特定する新たな検査法

インフルエンザウイルスは、毎年のように国内外で大流行し、国内だけでも数百万人の方々が苦しみます。近年、ニュースでもよく取り上げられることから、インフルエンザウイルスは、耐性ウイルスに変異しやすく、常にあらたなワクチンや新薬の開発を余儀なくされています。

そんな中、わたしたちは、紫外線を当ててインフルエンザウイルスを迅速・簡便・高感度に判別する「バイオイメージング剤」としての研究用試薬を商品化しました。

人や動物がインフルエンザウイルスに感染した時、体内でウイルスのシアリダーゼという酵素が働きます。わたしたちはこの酵素に着目して研究を進めてきました。わたしたちが商品化した試薬と、シアリダーゼを反応させると、色素系蛍光剤と糖に分離します。この蛍光色素に紫外線を当てると、高感度でインフルエンザウイルスの有無を判別できます。この試薬はより簡便に速くインフルエンザウイルスの検査が行えるうえ、タミフルやリレンザなど、どの薬が効くのかも即時に判断できます。また、この試薬はウイルスを「生け捕り」することができます。従来から一般的に用いられてきた抗体を検出する検査法ではウイルスを生きたまま検出することはできませんでした。インフルエンザウイルスは極めて耐性ウイルス化しやすいので、生け捕りし、ウイルスの変異を追いかけることができるようになれば、耐性株、新型ウイルスに対応できる新薬の開発につなげることが期待されます。

客員教授 木平 健治

がん細胞やインフルエンザウイルスに感染した細胞などに反応し、
光る「バイオイメージング剤」

シアリダーゼは、インフルエンザウイルスのほかに、パラインフルエンザウイルス(風邪の原因ウイルスの一つで、インフルエンザと似た症状を引き起こすウイルスで有効な治療薬がない)、おたふくかぜなどの病原性ウイルスにも含まれています。さらに、シアリダーゼは大腸がんや子宮頸がんなどのがん細胞にも含まれるため、病変部位や転移先の素早い特定により、スムーズながん治療も可能となるために、この研究は幅広い疾病への応用が期待されます。

ウイルスの検出薬ができるということは、ウイルスの酵素蛋白構造が推測できるため、治療薬の開発に大きくつながります。例えばおたふくかぜの場合、ワクチンを接種した方はおられると思いますが、罹患した場合、有効な治療薬は現在のところありません。しかし、この研究から治療薬の開発につながる可能性を秘めているのです。将来、ウイルスの色分けで一度に判別できる検査剤の誕生も、遠い未来の話ではありません。

今後、さらに検出感度を向上させ、臨床検査薬の開発に向けて協力いただける企業を探していきたいと考えています。

出会いが研究を生み出した

わたしがインフルエンザウイルスの研究を始めたのは20年以上前で、静岡県立大学の鈴木隆教授とのご縁がきっかけです。鈴木教授は静岡県立薬科大学(現静岡県立大学)の同期生で、以来、30年以上のご縁が続いています。鈴木教授は、インフルエンザウイルスの生化学的な研究を大学院在籍時から現在に至るまで続けています。鈴木先生が、2000年頃、米国留学時に、米国で小児がかかって問題になっていたパラインフルエンザウイルスの研究をされたことがきっかけとなり、それ以来、わたしも研究をご一緒することになりました。

私の研究活動は、キチン、キトサンから得られるアミノ糖を用いたリピッドAと呼ばれる内毒素の合成研究から始まりました。その後、鈴木教授との出会いから、研究対象は、動物体内に広く分布するアミノ糖の一種であるシアル酸にうつりました。シアル酸は生体内のレセプターの必須構成成分として糖蛋白や糖脂質として存在し、多くの生命現象に深く関与しています。

わたしにとって「糖」は研究者人生を通してベースになっている研究対象です。インフルエンザウイルスをはじめとした病原性ウイルスは、「糖」との関係性が深く、鈴木教授とわたしはそれぞれの研究の専門分野が重なり融合して、新しい研究を生むきっかけになったわけです。

その後、もう一つの出会いがありました。
広島国際大学の大坪忠宗准教授との出会いです。わたしのシアル酸研究と、大坪准教授の蛍光剤研究が、それぞれ融合して、新しい発想が生まれたのです。現在、無駄な薬の投与や副作用を防ぐために有効な診断薬の開発が期待されています。次にわたしたちが目指しているのは、シアリダーゼを持つ病原性ウイルスをより多く検出することと、それらの治療薬の開発です。これからも続けていくでしょう。

多くの若手研究者と一緒に研究をし、それを通じて若い方に光が当たることはとても嬉しいことです。

良い研究は良い教育につながる

最近、研究の成果を新聞等のマスメディアで取り上げていただくようになりました。メディアで紹介していただくと、在学生やその父兄、そして卒業生からも勤務先で話題にのぼったと、喜びの連絡をよくもらいます。

卒業研究に積極的に関わってもらうことにより、教科書では得られない生きた知識や経験を修得でき、学生にとっても将来、必ずや薬剤師としての糧になると確信しています。

地方の私立大学ですので、学生が研究できる環境と時間には限られたものがありますが、学生の「夢のある楽しい研究をしたい」というモチベーションには必ず応えたい。
研究を効率よく進めるためには、学生と教員の信頼関係を築いていくことが重要で、教員の都合ではなくて常に学生の立場を考えながら行わなければなりません。わたしの研究は、他分野の研究者との共同研究であり、他者と協力しながら進める研究を通して、学生には思いやりとチームワークを実感してもらいたい。これも、薬剤師として活躍していくために必要な教育だと思っています。

これからは、専門知識だけでなく、高いコミュニケーションスキルや論理的思考など、プラスアルファの知識を有した薬剤師が求められます。
ボランティア活動やクラブ活動もそうかもしれません。大学生活での多くの活動を通じ、地域社会に必要とされる、選ばれる薬剤師に成長して欲しいと願っています。

池田 潔(いけだ きよし)

広島国大大学 薬学部薬学科 教授

専門分野:有機合成化学、 医薬品化学

キーワード:合成化学、生物活性物質

研究テーマ:
1)シアル酸を中心とする生物活性糖類の合成研究
2)新興・再興感染症治療薬の開発研究
3)バイオイメージング剤の開発研究
4)フルオラスケミストリーの合成化学への応用研究

所属学会:日本薬学会、有機合成化学協会、日本糖質学会 他

ページのトップへ戻る