レポート 今、現場を知る。

へき地医療の最前線に学ぶ

教授 杉原 数美

教授 杉原 数美

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へき地医療の課題を理解する

2016年2月に、広島県が指定するへき地医療拠点病院の一つである庄原赤十字病院の協力を得て、無医地区と呼ばれる地域を巡回する移動診療に学生たちと共に同行させていただきました。そこでは、高齢化が進む過疎地域で、より質の高い医療サービスを提供するために、多くの医療従事者が活躍している現状を知る機会を得ました。薬学部生が5年次に履修する通常の実務実習では、病院や調剤薬局での実務を学ぶことはできます。しかし、それぞれの土地に根差した諸問題を理解するには、実際に体験して肌で感じてみる必要があります。まずは、医療従事者や患者さんから、へき地医療のニーズを聞き取り、地域にフィードバックする活動を開始しました。

移動診療はチーム医療の最現場

無医地区とは、「医療機関のない地域で、その地域の中心部を起点として半径4キロメートルの区域内に人口50人以上が居住している地域で、かつ容易に医療機関を利用できない地区」と定義されています。広島県はそのような地区の数が56か所もあり、その数は全国で第2位となっています。特に広島県の北部に位置する庄原市に、そのうち23か所が集中しています。
当市では、高齢化が進み、自家用車で通院できない方がたくさんおられます。その方々に医療サービスを提供すべく、移動診療車による巡回診療を実施しています。毎週火曜日と木曜日に庄原地区7カ所の無医地区を順に訪問。住民が安心して暮らせるよう活動しています。
移動診療車には、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職という各専門家が一つのチームを組んで乗り込んでおり、複数の専門職が連携し、それぞれの専門的な役割を担いながら、治療に取り組んでいます。また、血液検査、腹部・心臓超音波診断、心電図検査ができる設備が整っており、病院とほぼ同等の医療を地域で実施することが可能です。診察、検査、薬の受け取り、費用の支払いを、すべて自宅から徒歩圏内で行うことができるのです。

移動診察車の設備についてスタッフの方から説明いただく

移動診察車の設備についてスタッフの方から説明いただく

巡回医療中の移動診察者車

巡回医療中の移動診察車

へき地医療で薬剤師ができること

へき地では毎日のように医療サービスを受けることが困難な環境ですから、配置薬を常備している家庭が多い現状があります。移動診療で処方された医薬品と配置薬やサプリメントとの飲み合わせに関するアドバイス、そして、薬の管理指導など、薬剤師にできることはたくさんあると考えています。また、近年、副作用や薬物療法の効果などを確認する目的で、薬剤師にも脈拍や血圧などを測る「フィジカルアセスメント」の実施が認められるようになりました。
患者さんにとって喜ばれることは何か、学生たち自身で地域のニーズを聞き取りながら、具体的な活動を展開する予定です。

現場に学び、現場に活かす教育を

高齢化がさらに進む日本では、従来行われてきた病院という場だけでの医療では立ちいかなくなります。厚生労働省は、地域の実情に合わせて、住み慣れた地域で医療、介護、生活支援などのサービスを受けられる仕組み「地域包括ケアシステム」の構築を推進しています。そして、今後、医療の現場が病院から地域に広がり、地域や家庭で医師や看護師らと多職種で連携した医療を実践する必要があります。 へき地医療を学ぶ活動は、薬学部の学生のみでスタートしましたが、いずれは、多職種をめざす学生たちにも輪を広げ、学部の垣根を越えた活動に展開してほしいと願っています。

今回の活動を通じ、薬剤師をめざす学生たちは、医師や薬剤師、その他チームスタッフの方々の無医地区での活動に触れ、大いに感銘を受け、医療人をめざす者として、決意を新たにした様子でした。
また、活動中、他大学の医学部の学生もへき地医療を学ぶ実習を行っていました。医学部でも多くの学生がこの分野に対し関心を持っているようで、他の医療従事者をめざす学生からも刺激を受けたようです。
このたびの活動は、学生たちにとって、普段の授業では決して得ることができない経験だったと思います。今後さらに活動を具体化し、そこで得られた感動や刺激を将来に、そして、質の高い医療につなげてほしいと願ってやみません。

杉原 数美(すぎはら かずみ)

広島国際大学 薬学部薬学科 教授

博士(薬学)、薬剤師

専門分野:薬物代謝学、環境衛生薬学

研究テーマ:
1)薬物代謝酵素の発達・変動のメタボロミクス解析
2)薬物代謝酵素の性差発現機構の解明
3)医薬品による環境汚染と生態系への影響
4)医療廃棄物の適正処理

所属学会:日本薬学会、薬物動態学会、トキシコロジー学会

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