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シリーズコラム『(医療)福祉は、例えるとブラックホールのようなもの?』

①“相談援助”って、こんなこと。

 4回にわたりお届けしました介護職シリーズが終わりましたので、今回からは(医療)福祉職についてシリーズでお話をしてみたいと思います。

 

 福祉職はもちろん、心理職やそのほかの医療関係職種は、対人援助職と呼ばれています。その意味では、商品を決めかねているお客さんが選びやすいように、それぞれの商品の特徴を詳しく説明してくれる店員さんも、対人援助職と言えるでしょう。

 その対人援助職の中にあって、医療ソーシャルワーカーをはじめとして医療・福祉の領域で働く社会福祉士、精神の領域で働く精神保健福祉士は、“相談援助職”とも言われています。

 相談援助職という言葉を見て、「相談に乗り、相手の方の問題を解決することを仕事としている人のことなの?」と思うかもしれませんね。

 相談に乗ることを通して、相談に来られた方が、自分の力で自分の抱えている悩みやさまざまな“問題”に立ち向かっていくことができるようになる。これが“成長”です。つまり、福祉職の援助というのは、「問題の解決」に焦点を当てるのではなく、相談援助職との関わりを通して“成長する”ことに焦点を当てるわけです。

 

 皆さんは、ドイツの作家ミヒャエル・エンデ(Ende, M)の「モモ」という小説をご存知ですか?

 円形劇場に住み着いた少女モモが,時間泥棒の灰色の紳士たちから「人間の時間」を取り戻すという物語ですが,実はこのモモには「相手の話を聴く」という特殊能力が備わっています。

 その作品の中にこんな場面があります。モモに話を聴いてもらっていると,馬鹿な人にも急にまともな考えが浮かんでくるが、かと言って,モモがそういう考えを引き出すようなことを言ったり,質問したりするというわけではなく,ただジッと座って,注意深く聴いているだけです。モモはその黒い大きな目で,相手をジッと見つめていると,相手には自分の何処にそんなものが潜んでいたのかと驚かされるような考えが,スッと浮かび上がってくるというのです。この物語のなかで,モモがしていることは、考えを引き出すのでもなく,積極的に質問をするのでもなく、ただ話している相手に注目し,注意深く耳を傾けているだけなのです。

 こんなことってあるの?と思われるかもしれませんが、お互いの間に信頼する気持ちが出てくれば、そのようなことが生じるようになるんです。

 このモモがしていることは、“相談援助”そのもので、極意とも言えます。

 ちなみに、相談援助職として最も重要なスキルは、体を少し前かがみにし、耳を話し手の方に少し向けて話を“聴く”こと、これを“傾聴する”と言いますが、それが意外と難しいんです。話を聞くことに100%注力しようとすると、体を傾けることに意識をとられ、当然、100%から幾分かのエネルギーが削がれてしまいます。厄介なことに、話を聞くことに集中できる時間は、思ったほど長くありません。そのため、いろいろな雑念、例えば、「こんなことで悩むの?」、「この話はさっき聞いたけど…」、「ちょっと飽きてきたなあ」、「お腹が空いてきた」、などが思い浮かんできますので、その都度、聴くというエネルギーがさらに削がれてしまうことになります。削がれた分、耳に入ってくる情報量が少なくなってきますので、困りに困り、思い切って相談に来られた方が一生懸命に話している辛い想いなどを十分に受け止める、理解するということができなくなります。

 

 ちなみに、聴くという文字を現代の中国で使われている公式の漢字で表わすと、「聽」と書きますが、実はこの文字は聴くことの難しさを表しています。この文字を分解すると、「(聴くこととは、)大きな耳を持った王様が、十四の心を一つにすること」となります。良い国を作ろうと考えた王様が、民に対して「良い国にするために意見や考えがあるものは言いに来るように」という御触れを出したものの、国中から来た民の話を聴いているうちに疲れてきますし、お腹もすいてきます。その上、まとまらない話やくどくどとした話を聴いているうちに、睡魔に襲われてきます。興味がある話や面白い話ばかりではありませんから、眠たくなるのは当然です。

 同じように、相談援助職のところに持ち込まれる話は、面白い話や興味が湧くような話とは言いきれませんが、その人ご自身にとっては真剣に悩んでいることですし、非常に困っていることなんです。 

 相談援助職はプロですので、できる限り長い時間、できる限り集中を切らさずに話を聴くことができるように訓練を積み重ねなければいけません。モモのようになるために。モモに限りなく近づけることができれば、ただ聴いているだけで、相談に来られた方は自身の力で問題に立ち向かっていくことができるようになります。

 

 もうひとつ大事なことは、相談に来た人にとって、「こんな自分に寄り添ってくれている人がいる」ということを実感できるような関わりをすることです。相談援助職としてその方に寄り添い、聴き続けることが出来るようになれば、相談援助職として必要とされる存在になります。この寄り添うことの大切さについては、後日取り上げてみたいと思います。

 

医療福祉学部長 吉川 眞

最終更新日:2014年10月10日